第18話・隠し玉もあっさりと

 はるか昔、宇宙に上がるのも困難とされていた時代があった。その時の人々にとって、宇宙飛行士はまさにエリートにして冒険者であった。

 彼らの奮闘無くして、今の時代は無い。


 そんなことを思いながら、才色兼備のアンネッタ女史はガタガタと揺れに揺れる状況に耐えていた。

 新時代のエリートたる自分が恐れては先人達に申し訳が立たない。そういう風に自分を納得させている。



「サルマ……そちらから見て、こちらに異常はないかしら」

『ははは。めっちゃ揺れてる。やっぱり素人仕事だな。電磁シールドと積層装甲があるから、落ちることは無いんだ。安心しろ』

「じいさん! 何とかしてくれ! アタイのコレクションがぁ!」



 これから放浪者になろうとするエプソにとって、グランパ号は当面の新居だ。そのため色んなガラクタも持ち込んでいたが、固定しておくのを忘れていた模様。

 宇宙行ったこと無いやつって新鮮だ。そう感じながら、サルマは安心させるためにスピーカーで答えを返す。



『はいはい。ゴロー、フォーメーションを組む。直列陣形で俺を先頭に。ついでに最悪の事態に備えて、トラクタービームとアンカーワイヤーをグランパ号にセット。アンネッタ、多分ロックアラームが鳴るがどうにかしろ』

「はぁ……いざという時は引きずって連れて行くってことね。ロック確認。セキュリティ強制解除。エプソは空気漏れに備えて」

「わわわ! ってどうすれば良いんだよ! 姉御!」

「姉御!? いえ、それはともかくキゼルに乗ってれば良いでしょう。最悪、この船が落ちても生き残れるのだし」



 言った瞬間にはエプソは駆け出していた。行動力は大したモノだ。加えて、ジャンク品とは言え機械を独学で弄っていた技術力も持ち合わせている。



「あの子が放浪者なんて勿体ないわ。鍛えて、新時代のエリートにしてあげましょう……ふふふ」



 アンネッタが気味の悪い笑いをしている間に、一行はタランノリージョン・Ie04ソーラーシステム恒星系・第4惑星を抜け出していた。

 しかし、抜けきれてはいなかった。サルマのルーキーナイト号から通信波がグランパ号とゴローに飛ぶ。



『お客さんが来た。地上で何もしてこなかったと思ったら、なるほど。あちらさんは隠し玉があったようだ。ガレスを出す』

「セキュリティ戻し。何が……」



 あったかを聞く必要は無かった。こちらに向けて接近してくる艦影が5つレーダーに表記されていた。アンネッタの眼鏡型デバイスでも確認が取れる。



「コルベット!?」

『連中が市場を仕切っていたのは、自分たちだけ宇宙に行けるから……というわけだ。エプソ、キゼルに乗っているか?』

「お、おう!」

『入力方式を音声に切り替えて、バランサーを宇宙空間にセット。ゴローの船の周りを回れ。最悪の時だけグランパ号の盾になれ。以上』

「ちょっと! この子を出すには早すぎない!?」

『だが、いい機会だ。宇宙に慣れる意味でも……』



 そして宇宙では余計なことをすれば、波紋が広がっていくということを学べる。そう言おうとしてサルマの口は凍りつく。それはそのまま自分へと返って来る言葉だったからだ。



『はぁーはっはっ! てめぇら。このピューラー様を随分と舐めてくれたな! 降参するならどれ……』

『外敵に出くわす可能性が無いとこうなるのか。気をつけよう』



 哀れ、ピューラーのコルベットは登場した瞬間に爆散した。通信を広域で送ったことで、指揮船はここだと宣伝してしまったのだ。

 座標が分かれば、通常航行状態の船に対してショートジャンプでの奇襲がかけられる。そして、指揮官がいなくなった愚連隊の末路は決まっている。



『弾が勿体ない。コックピットだけ潰す』



 残りの四隻は今後のための資材となった。

 中にいる人間など何の価値も無いというように……宇宙での生命は軽かった。

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