第24話・元隊長
アンティーク・ドール〈ライオネル〉は躊躇なく、ガレスに向けて突撃を敢行した。一見は単なる猪突猛進だが、そうではない。
ライオネルが持つのは槍だが、ランスではなく細身の長槍だ。振るわれるその槍を大げさに躱す。音など無いが、そこに留まっていたら撃墜されていた。
そう。オレはライオネルをよく知っている。あの長槍の外見はカモフラージュであり、全体は不可視素材が取り付けられいるので見た目よりもかなり長いのだ。
「当然、手の内は知られている。だが、分かっているのかサルマ。お前は異常だよ。ただ知っているというだけで戦闘に応用できてしまう。アンティーク・ドール同士の戦闘など考慮されていなかったというのに」
「久しぶりの再会に! そんな言葉から……!」
かつての“隊長”との関係は良好だった。彼もオレを信頼してくれた。オレも彼を認めていた。背中合わせで戦ったことだってある。
なのに、なぜ……いきなり戦闘になるのだ。ただロッドを持って立っている儀礼兵だったオレたちがなんでこうなる!
「ここにいた連中を殺した理由は!?」
「アーサーのテストだ。戦闘能力というだけでなく、何かしら隠れていないかと思ってね。敵勢力が適度な数で集結しているのがここだった」
そこにアンネッタはいた。
歯をぎりりと鳴らせば、隊長に対する敬愛がアンネッタのモニター越しの別れを下回った。
殺す。
そう決意をしたはいいが、ライオネルの動きは完璧で付け入ることができない。それは性能ではなく、敵手が上手いのだ。位置取りが巧み過ぎる。
当然の話だった。先程アンティーク・ドールの戦闘にとやかく言われたが、隊長……元隊長には知識がある。そもそもガレスの原型がライオネルなのだ。得物が同じ槍というのも、そのためだ。
相手の立場になって考えろ、というやつだ。いくら速度を上げようと、ショートジャンプしようとライオネルは悠々と射線上から外れている。
これは経験値の差だ。隊長として部下を率いて死地に送り出し、さらにオレ達を通じて多くの若者を地獄に叩き込んだ血の経験値。
腕前が落ちていない程度のオレでは、ライオネルをとらえられない。唯一の弱点は槍の間に潜り込む超接近戦だけだが、おそらくソレは意図して作られている。希望を見つけた虫を潰す罠だ。
ならば……
「ああ、いいさ。オレは貴方に勝てませんよ。代わりに……その知らない野望を潰して満足しよう。相棒に贈る花だ」
ガレスの腕が輝く、狙いはライオネルではなくアーサー。おそらく眼前の元隊長にとっても重要であろうファクターを潰す。
できるかどうかは知らないが、的がデカイ分ライオネルよりも当てやすいだろう。やたら尖った頭部すら憎らしい、あの無駄に強力な脱出ポッドを消し去るのだ。
「なるほど。それが分かれば充分だ。ガレスの特殊機能はアーサーにすら有効であると……それにヴォイド弾は今では補給ができないらしいな。サルマ、時折誤解されるが私も人間性の全てを捨てたわけではない。取引といこう」
「なんの冗談ですか? オレは貴方の馬鹿げた計画に付き合う気は無いですよ。付き合う義理も無くなった」
「いいや、話を聞く義理ぐらいはあるさ。自分の目で見てみると良い。生きている船を見つけられるだろう?」
「まさか……」
アーサーが白と青に彩られた腕をゆっくりと動かした。それはこちらに向かって突きつけるようでもあり、下賜するようでもあった。
規格外の巨大ドール・アーサーの手にグランパ号が握られていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます