第10話・魔弾

 離れていく戦場はまさに花火だった。それもショートワープで流れて見えなくなった。

 アンネッテは少しばかり不満を覚えた。一緒に戦うと言ったにも関わらず、ルーキーナイト号がやったことと言えば、最初に武装タレットを見せて敵の気を引いた一瞬だけだった。

 軽く武装した程度の輸送フリゲートと採掘用無人機で戦うと考えた時は、死すら覚悟したのに……と、悩んでいてもソレ以上を求められても困っただろう。結局己の覚悟はそんなものか、という羞恥が不満から呼び起こされた。



「ゴロー、貴方はサルマがあんなもの持ってるって知っていたの? というよりは……アレは何なの? ドールにあんな性能があるはずはない……」

『Vi……Vi~~』



 ゴローのマシンボイスはアンネッタには理解できないものだったが、青緑の蛍光パネルに画像が表示された。ゴローが解析した限りの情報を共有してくれたのだ。



「ば……バカなの、これ作った人……? それに彼はどうやって操縦しているの? こんなもの……それこそ無人機にすべきだわ」



 動力だけを見てもモノポール反応炉とマイクロブラックホールドライブの複合式。確かに出力は無限になるだろうが、兵器に無限など必要がない。更新時期は必ず来るだけでなく、敵に鹵獲されもする。大前提としてコストがかかりすぎて量産ができない。

 その他の仕様も全てが特殊。現代では再現不可能な技術のオンパレードである。装甲は積層式キネティックフィールドプレート、主兵装はランス式アクティブヴォイドレールガン、etc……

 豪華を通り越して狂っている仕様だ。通常速度も高速フリゲートを遥かに凌駕するというこの機体を、なぜ人間が操れるのか?

 普通であれば処理に脳は茹で上がり、反重力デバイスでも相殺しきれなかったGで体は潰れる。そして、過度の連続ワープで神経と内蔵もめちゃくちゃになるはずだ。


 それをいのままに操れるサルマはつまり……そこまで考えた時に、そのサルマの顔がスクリーンに大写しとなった。



「サルマ……」

『シールドを後方に全力展開しつつ、回避行動! 急げ!』

「!?」



 あのやる気のない男の口から飛び出たとは思えない、堂々としつつも焦りのある命令に反射的にしたがうアンネッタ。方向など考えずに、機首を押し込んだ動きにゴローの無人機も追従する。

 直後、振動と共に周囲を電流が走った。今、アンネッタの横を死が擦過していったのだ。



『VViiii~~~!?』

『被害報告!』

「えっ、あっ! シールド出力低下したものの、アーマーは無事! しかし、スラスター制御がエラーです!」



 思わず敬語になってしまったと思いながら、アンネッタはどうにか姿勢を保とうと苦闘を開始した。周囲カメラにはようやく追いついたサルマの騎士然としたアンティークドールの姿しかない。



「い、今のは……!」

『カクテル・カルテルのバトルシップ戦艦からの超大型アーティクルガンだ。いわゆる長距離レールガンだよ。あの艦艇でこの距離はロックオン圏外のはずだから、マニュアルでの狙撃。しかも、ご丁寧なことに外した場合も考えてイオン帯弾頭を使用して電子回路を焼く置き土産付きか……化け物め』



 スクリーンに写ったサルマの顔は獰猛な肉食獣に似ていた。サルマ自身、それに気付いたのか強いて表情を無にした。


 ……機械すら超えた理外の砲手。そんな同類がこの時代にいたことが楽しいなどと……思うつもりは無かった。コレ以上の追跡は無いことが確認できると、サルマは舌打ちをして、ルーキーナイト号へのアプローチを開始した。

 念の為に後方に付いて、盾代わりなる動きだった。


/


 サルマ達と対するカクテル・カルテルのバトルシップ戦艦。その砲手席に座っていたヨムザ大佐は、気怠げに椅子から立ち上がった。



「手応えが無い。外したか、外されたか……まぁアレにこちらと積極的に敵対する意思が無いと分かっただけ収穫か。代わってくれ」



 言われた本来の砲手にはヨムザがやったことも、言っていることも何一つ理解できなかった。




 


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