第6話・採集と襲来
タランノリージョン。かつてもここは田舎だったが、それが今はドが付く田舎である。ドローン達が繁栄していることに気付かない程度には人がいない。つまり住んでいる人間が誰もいない。
もしくは運悪く全通信システムが壊れていて、宇宙船も全部ダメになっているかだ。宇宙は広く、なんでも起こり得るので無いとは言えない。
そこがまさか戦場になるとは……懐旧連合もカクテル・カルテルも余計なことをしてくれたとサルマは思う。
『Vi---Vo---!』
『この基盤って使えるのかしら。いや、もう全部拾っちゃいましょう!』
連続照射されるトラクタービームが宇宙に煌めく。若いということは偉大かな……と考えながらサルマは自分のフリゲートにそれを受け入れていく。
ルーキーナイト号は腐っても輸送用のフリゲートだ。ポッドが拾える程度の量なら普通に収まる。
問題はなぜか付いてきたゴローの方だ。ゴローの船は無人機ゆえにサルマのフリゲートより小型だが、積める量にさほどの差がない。
そして連中が張り切って集めた資材を分類するのはサルマの仕事になる。当初予定していた労働量がいきなり2倍に跳ね上がれば、誰だって泣きたくなるだろう。
サルマは少し考えた後、時計をみやってため息をついた。次に艦長席の下に収めていた古びた箱を取り出して開く。そこにあったのは透明な四角い物体。情報を内蔵したクリスタルキューブだ。
「二人とも、感知範囲を絞ってレーダー精度を上げろ。採集物の選り分けをオレが指示する。チュノッサ連合のパーツはこっちに、カライザ共同体のパーツはゴローの方に入れる」
『そんなことができるの? なんで今までしなかったの!?』
「嫌だったから。あと予想以上に集まりそうだからだ、主にゴローの頑張り過ぎで」
『ViVI!? Vi~』
ゴローの抗議がサルマにはやかましい。言葉が多いのはメガネ女史の方だが、マシンボイスが理解できるサルマからすれば、ゴローの発言は情報量が多すぎるのだ。
「喋るのはそこまでにしてくれ。集中する」
そう言うとサルマはまるで禅僧のように無表情になった。耳に端子口の付いた機器をセットして、ルーキーナイト号の端子をそこに入れ込む。丁度旧世代のオーディオ機器に似ていた。
「限定接続。外部情報をサルマ・ササキへ転送開始。チュノッサ連合ならびにカライザ共同体の全シグナルを一時的にインプラントへとインストール。コンプリート」
今やサルマの視界はルーキーナイト号のそれと完全に一致していた。周囲の光景が風景でなくなり、文字の羅列へと置き換わる。
周囲のデブリ帯は作られて間もない。生きている機材が多すぎるが、サルマはそれを粛々と処理していく。並の人間どころか、小さなAIなら異常を来す情報量を苦もなく選り分けていく。
「女史。ポイントL-288にチュノッサ連合の
壊れたラジオのごとく、サルマの口から情報が溢れ出る。しかし、次第に口頭では間に合わなくなり、ピアニストのような動きで機材を操作しての送信に切り替える。
『信じられない……貴方、本当に人間?』
大まかには、という言葉を飲み込んだサルマは指示を続行する。そもそもルーキーナイト号に支援機能が付いていれば、こんな真似はしなくて済むものをと考えつつ、感覚をさらに広げていく。
それがソーラーシステム全域に広げられたのなら、サルマは続く事態から逃れることができただろう。しかし、パーツ集めのために一定範囲内に収めていたことが仇となった。
「……? 正体不明の波形を確認。視覚情報に変換……!」
『ちょっと! いきなり何よ、この警報!』
『Vi~?』
「それどころじゃない! 大型のワープフィールド妨害ネットの波形を感知! 長距離ワープドライブが使用不能になっている!」
意識を肉体に戻して、レーダーに映る点を見る。観測範囲がそれほど大きくないフリゲート艦でも確認できる点、それに加えて年季の入った信号。
「カクテル・カルテルの
間に合うか、と自身で疑念を抱きながらサルマは女史のポッドの収納作業に取り掛かった。
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