過去から現在への贈り物
【囲う過去】
俺の幼い頃の記憶。
世界が黄金に光っている。
太陽の日差しが強い訳じゃなく、俺の目が病気な訳でもなく、世界がキラキラと輝いている。
黄金色に煌めく風景に、心が踊らないはずがなかった。
知らない景色、知らない街並み、知らない人たち、知らない知識、知らない経験、知らない自分に知らない空。
自分が無知という事すら知らない、何にも知らない俺。
無知で未知な世界に、興味が湧かないはずがなかった。
漫画やアニメに広がる世間一般とは異なる世界、テレビに映る面白い世界。
なんでも好きで、全てに興味を持った。
俺は楽しかった。
楽しくて楽しくて楽しくて素敵に愉快だった。
箸が転がるだけで笑えたし、ただ走っているだけで楽しめた。
それは何故か―――面白い事が満ち溢れていたから。
面白い事が大好きで、楽しいのが正義だった。
漫画やアニメに広がる愉快で刺激のある出来事、テレビに映る面白く楽しい出来事、それを体験して経験したかった。
だから俺は、面白そうな出来事を求め何でも挑戦したし、楽しい出来事のために危険な事もいっぱいした。
どれだけ怪我してどれだけ怒られても気にしなかった、どころか余計に追い求める毎日。
世界が無限に広がり未知を知れば知る程、愉快に素敵な世界が待ち受けていた。
俺はまだ子供で幼いから、行ける場所なんてたかが知れている。小さい体に狭い世界、それすら自覚せず動き続ける。
何故そこまで駆り立てるのか?
俺には、ある言葉が支えになっていた。
それは誰かが言った、俺にとって魔法の言葉。
《現実は小説より奇なり》
実現する事を信じて疑わず、思い込み決めつけていた。
【贈り物】
変態紳士さんの件から数日が経ち穏やかな天気の中、僕こと真中実はせっかくの休みだから家でダラダラしようと意気込んでいたのだが、その計画と意気込みは悲しくも断念する事となった。
「明日の朝十時に、○○公園まで来て下さい」
昨晩の突然な着信により、わざわざ○○公園まで足を運んだ訳だが―――なんの意図があって僕を呼んだんだ?
いや、その前に相手が誰かも定かではない。電話では名前を全く教えてくれなかったし、あれ、名前も分からない見ず知らずの人に呼ばれて疑いもなく来た僕って、もしかして頭悪い?
し、正直者はこれだから困る。
時計は集合時間を指している。
おいおい、突然呼んでおいて遅刻はナンセンスじゃないのか?
(……)
(十分経過)
(……)
(十五分経過)
(……)
(二十分経───)
来ねぇのかよ!!!
騙された?ねぇ、僕って騙されたの!?
あぁ、せっかくの休みなのに気分が悪い、最悪の気分だ!もう帰ってふて寝してやる!
「帰らないで下さい。ここにいます」
うおおっ!後ろからの声に驚きを隠せず大声を出してしまう。
えっ、いつからいたの?
「あなたが来る前からいましたよ」
なら声かけろやっ!!!こっちは誰に呼ばれたかも分からないんだから!
「はぁ…、これは失礼しました。お詫び申し上げます」
そこまで丁寧に謝罪されたら、なんかこっちが悪いみたいだな。
「急の呼び出しに応えてくれて感謝します、まこっ―――いえ、真中先輩」
先輩?君はもしかして一年生?
「もしかしなくても一年です。ところで僕の事はご存知ですか?」
えっ、いやっ、申し訳ないが初対面じゃないのか?前にどこかで会ったか?
「はぁ、面識ありますよ、僕ら」
マジ!?えっと、どこでだっけな?
「本当に覚えてないんですか?呼吸するよりも溜め息する方が多くなりそうです」
うおっ、一年生が僕に呆れている!?これはマズい!こんな事は前にあった変態紳士さんとの……あっ、あああっ!!!
「お、思い出しましたか!?」
変態紳士さんの行方を、一年生に聞いていたときだ!!!
「全くもって聞かれていないんですが。本当に僕の事なんて、印象にも残って無いんですね…」
あぁ、一年生に悲しい目線で見られている。先輩の威厳なんて欠片もない。
ご、ごめんなさい。とりあえず謝ってみる。
「いいんです。どうせ、どうせ僕なんて…いや、いいんですよ?僕なんて普通すぎて存在をアピールすら出来ないですし、他人様に覚えて貰おうなんて、おこがましい行為だったんです。」
拗ねてるぅー!!!めっちゃ気にしてるじゃん!ちょっと涙目だもん!わ、悪かったよ。
「僕みたいな凡な奴なんて、誰の印象にも残らないんです。知ってますとも、えぇ!何か問題ありますか?」
いえ、問題は無いけど。
なんだろう、悪いのは僕だから相手の話を真摯に聞かないといけないけど、若干―――いや、だいぶ面倒になってきた。
「ははっ、いいんです、無理しないで下さい。僕の事ウザいって思っているんですよね?面倒な奴って感じているんですよね?素直に言ったらどうなんです?」
確かに、絡みたくないキャラの上位にランクインされそうな勢いだけど!
少なくとも原因の一端は僕にあるし、困った事態だ。
「やれやれ、本当に困ったものです」
お互いにな!!!
「誰かさんはいつまで経っても素直になりませんし、本当に覚えていないんですか?」
ジト目で先輩を見ないで頂きたい。
「そろそろ素直になったらどうです?」
はい?それは、どういう???
「里見 薫(さとみ かおる)が、僕の名前なんですが―――まだシラを切りますか?」
「無言ですか。返答無しは肯定とさせて頂きます」
「あなたがいくら慣れて熟れたからって、こっちはいつまでも見馴れませんし、見るに耐えません」
「もう十分楽しめたんじゃないですか?そろそろ《日常》という仮面を取ったらどうです?」
薫の言葉に、僕は―――いや、《俺》はゆっくりと口を開き、そして。
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