おやすみ。
僕の日常に些細な変化が起きたり起きなかったりした、ここ最近の日々の連なり。
騒がしかったりそうでなかったり、面白かったりそうでなかったりする毎日を過ごしながら、僕はそれとなく生きている。
非日常を求めていた俺は、もういない。
特別な何かを求めていた僕も、もういない。
何が正解で何が不正解かなんて分からないけれど、この日常を求めた僕は確かにここにいる。
息を吸って自分の足で歩いて自分の意志でここにいる。
誰の意見も関係無い、自分自身で選んで僕は今を過ごす。
平凡な人格に日常の仮面、嘘か本当かも定かではない僕。
そんな僕だからこそ―――。
夏の始まりを感じさせるある日の朝、僕は相も変わらず登校中だ。
「どうも、おはようですわ!今日も良い天気で何よりですわね」
おはようです。最近天気悪かったですからね、久々に太陽を拝めましたよ。
「ども、おはようございます」
おう、おはよう。相変わらずまったりしてるな。
「今日の授業で体育があるんだけど、ブルマを穿いた方が良いのかな?」
いやいや、時代錯誤も甚だしいですね。今時ブルマなんてアニメでしか登場しないですよ?
「えっ、そうなの?知らなかったわ」
いつの時代からタイムワープして来たんですかねぇ?
「はて、面妖な」
どっちがだ!……って、アレ?
「何難しい顔をしているのかしら?」
えっと、いや……アレアレ???
「しっかりして下さいよ、実君。まだ寝ぼけているんですか?」
いや、そういう訳じゃないんだけど―――って、あああああ!!!
なんで里見姉弟がいんのよ!?
「別にいたら悪いかしら?ねぇ、薫」
「そうですよ、実君。失礼じゃないですか」
そ、それはそうなんだけど。
「昔の実ちゃんを求めるのは止めにしたわ。だから今のあなたと友達として楽しもうと思うんだけど駄目かしら?」
駄目じゃないけど。
「今の実君が何を考えていても実君には変わりないですよね?なら、それでいいんです」
そ、そう言われてもな。
「都合でも悪いのかしら?」
悪くないけど、また急だな。
「『駄目じゃなくて悪くもない』という結果は変わらない。なら、そこにどんな考えという過程があろうと―――」
『何でも一緒でどちらも同じ』
姉弟揃って言われた言葉に、僕は何も返せない。
それを見ていた姉弟は、クスクスと笑い始める。
こうして、僕の日常に新しくも懐かしい面子が増えたのだった。
「いやぁ、君の日常は相変わらず面白いね」
携帯電話から聞こえてくる楽しそうな声に、げんなりしながら答える。
僕からしたら急展開の超展開だったんだぜ?焦ったよ、ホント…。
「でも、あのまま縁が完全に切れてしまうには、勿体無い人達だったと思うけど?」
それはそうなんたけど―――ったく。
里見姉弟とまさかの和解をした日の夜、僕は天草と電話でお話をしている。
学校でも頻繁に喋るのだが、最近はこうやって携帯電話を使い会話に勤しんでいたりする。
「しかし、前に起きた手紙の件は里見先輩によるものだったとは恐れ入ったよ。なんであの時教えてくれなかったんだい?」
いや、だってこれ以上心配させたくなかったし、頼り過ぎは良くないだろ?
「気を使ってくれたのはありがたいが、『最初から対処する気がなかった』が抜けているよ?」
ははっ、見透かしてるな。話が早くて楽だけど。
「どんな理由であれ、私に相談してくれて嬉しかったよ。頼られる事も私の人生には今まで無かったからね」
そうか、なら良かった。
でも相変わらずだよな、僕らのやり取りも。
「いやいや、何を言っているんだい?君は人形か何かなのかな?私達は人間で人物の人なんだよ。人格もあれば感情もある、変わらないモノなんて無いさ」
「人は成長して変化する生き物なんだ、知らなかったかい?」
それは知っているけど。
「だから、君の数あるキャラ作りも実際は成長の副産物という可能性もあるんだよ?」
キャラ作りが成長の副産物、か。
「経験を積み重ね知識を得て人は生きている。その過程で成長をするのであれば、感情や感覚、思想が変化する事だってあるだろ?『昔食べられなかった物が食べられるようになる』みたいな感じさ」
そういうもんかねぇ、そうだとしたらなかなか笑える話だ。
「これから君が成長してどんなキャラになっていくのか―――期待せずにはいられないよ」
期待されても挨拶に困るわ!ハードルを上げるのを止めて頂きたい!
「何にせよ、前に言わなかったかな?『私の大きくなった胸部で優しく仮面を剥いであげる』ってね」
だから、お前の胸部はまだまだ発展途上―――。
「はっはー、それは君も同じだろ?私達はまだ高校生で子供なんだ。互いに発展途上で当たり前―――結果は将来のお楽しみさ。だから、現実を決め付けて思い込むにはまだ早いんじゃないかい?」
仰る通りで御座いますよ、全く。
子供で発展途上の成長途中だもんな。
お前には勝てないよ、ホント。
「ふふっ、それもお互い様だけれどね。さて、時間も時間だから今日はこの辺にしようか?」
あぁ、もうこんな時間か。お前と話していると時間を忘れてしまうよ。
「それは光栄の至りだよ。では、おやすみ」
「また明日もよろしく、実」
「こちらこそ、奏」
日常の日常による日常のための一日は静かに終わりへと向かう。
過去が終わり現在を過ごし未来へと向かう。
何を得て何を失っても明日という日常は続いていく。
自分とは何者で何が正解かも分からないけど、人生は勝手に動き出す。
いろんな体験から経験を増やし知識を養う。
僕の日常はまだまだ始まりにすぎない。それとは別に、他の誰かの日常も確かに始まっている。
その中を僕は、《僕らしく》過ごせるだろうか?
結果は将来のお楽しみ。
これは起きる事件より送る日常の物語。
僕は明日を迎えるために、静かに目蓋を閉じる。
アネモネ 緋月 @bibby0824
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