天草 奏

なんだか分からないまま日曜を迎え、僕は待ち合わせ場所で天草を待っている。

まさか命令口調でデートに誘われるとは思わなかったので、呆気にとられた感は否めない。もう少し可愛らしい誘い方は無かったのだろうか?

しかし、天草と遊びに行く事は喜ばしい限りなので問題はない。

可愛いって、なんか卑怯だな。


「おーい、お待たせ」


適当に思考を巡らせていると、天草が小走りでこっちへ向かって来た。

「はぁ、すまないね。遅れてしまったよ」

あぁ、別にいいよ。僕も15分前に来た所だし。

「しっかり根に持っているのは気掛かりだが、しょうがない」

ははっ、まあまあ。

「さて、と―――どうかな?」

うん、何が?

「天然なのか自演なのか疑わしいが、今日の私の服装はどうだい?」

あぁ、そういうこと。

「真中君はまだ男子力というか紳士力が足りないみたいだ」

悪い悪い。さて、どれどれ。

天草の私服は何度か拝見した事があるが、今日の私服はいつもより何というか、露出が高い服装だった。

珍しいな、普段はもう少し露出を抑えた服装のイメージだったからなんか新鮮だ。

「そうかい、似合っているかな?」

あぁ、それは勿論。お似合いですよ、お嬢様。

「はっはー、なら良かった。悩んだ甲斐があったよ」

友達と遊ぶだけなのにそんなに悩んだのか、女子は大変だ。

「では、そろそろ行こうか?」

そんな訳で、僕達は歩き出す。

買い物やら食事やら何やら……僕達は遊び倒した。

時間を忘れ終始笑顔で雑談に興じながらの行動。

気付けば夜へと変わっていた。


「はぁ、疲れた。いやぁ、こんなに遊んだのは初めてかもしれない」

確かに、僕もここまで動き回って遊んだのは久し振りだった。

「最近色々と頭を悩ます事があったから、良いリフレッシュが出来たよ」

悩み事ねぇ―――それは大変だ。

「ありがとう。君と遊んで気が楽になった」

お礼を言われる事は何もしてないぞ?

「君は何もしていないのかもしれないが、私には重要だったりする」

そういうモノかねぇ。

「あぁ、実際私は君の何気ない無意識の行動や言動に助けられ癒されていたりするんだよ?」

大袈裟な、僕は別に―――。


「それとも『君の何気ある意識的な行動や言動に救われ惹かれている』と、言い変えた方が良いかな?」


えっ!?

「はっはー、聞こえなかったかい?もう難聴気取りのキャラは古いんじゃないかい?」

気取りって。

「それとも、それも含めて《君のキャラ》なのかな?」

いや、別に…何を言ってるんだ?

「気付かないとでも思ったかい?ふふっ、残念ながら気付いているよ、どれだけ君を観察していたと思っているんだ。それに―――」


「知っているんだろ?私の《あの件》について」


「気付かず知らない振りをしてくれているが、それも残念ながら気付いている。私の観察眼を舐めないで欲しい」

そっか、気付いていたか。

これ以上誤魔化しても意味無いみたいだ。で、いつから気付いていたんだ?

「最初からだよ」

最初から?

「そう、最初から。高校一年の時に君と同じクラスになってから、ずっと私は君を見てきた。確証の無い違和感があったからね、『あ、何かが違うな』って思っていたよ」

そうかい。

「それがどんどん確信へと変わっていった。君と接点を持った頃の《何かを求めていた君》を見て違和感が増大した。キャラにキャラを上書きしているような感じをね」

「それに、私に違和感をワザと与えていなかったかい?『仮面を付けてます』って、露骨なまでにアピールしていたように思えるけど?」

そうだね。お前の推理は完璧だ、まさにその通り。お前に仮面を看破して貰わないと、《日常の僕》が完成されなかったから。

「ふふっ、私を敢えておびき寄せたって事は、やはり《あの件》は知っているんだろう?」

その通り―――異論は無いよ。

高校生活初日から、やけに視線を感じると思っていたら君だった。色々調べてみたら《あの件》に辿り着いたよ。なかなか骨が折れたけどね。

お前には悪いけど正直喜んだ。あんな事をやらかした人間が、同じクラスにいるなんて最高だった。

あいつと接点を持ったら絶対に看破してくれて、《日常の僕》が完成するってね。

結局、僕の予想は見事に的中した訳だ。

《何も変わらない日常に何気ない僕》、という構図の完成。

人ってモノは思い込みが激しいからね―――仮面を剥いだ後には素顔があると簡単に思い込む。それが素顔という《仮面》だとも知らずに。


だから、天草には感謝しているよ。僕の前に現れてくれてありがとう。

そして、僕と友達になってくれてありがとう。


「それは光栄だ、こちらこそありがとう」

えっ、それだけ?なんか、こう…もう少し驚いたり引いたりない?

「はっはー、だから気付いていたよ。流石に全てを見透かしていた訳じゃないけれどね」

だとしても、なんでお礼なんだ?僕の行為は―――。

「それも先程言っただろう?君の何気ある意識的な行動と言動に救われている、と」


「私を利用してくれて、ありがとう」


はい?それはどういう事だ?

「君も良く知る通り、私は過去に《あの件》を起こした。あれで私は周りから疎まれ距離を置かれた。簡単に言えば孤立して孤独になった」

「それ故に、心を閉ざし他人との関係を避け、無口を貫くようになっていった。勿論被害者面をする訳ではない、私の自業自得なのだから―――私は加害者で私の責任だ」

「そんな人間に関わろうとする物好きなんているはずもなく、私は今まで独りで過ごしてきた。楽しい事も悲しい事も全部一人分、そこに共有も共感も無い」


「しかし、君はこんなどうしようもない私を利用してくれた。接点を持とうと考えてくれた、友達になってくれた」

「どんな理由でどんな建前でも、私を必要としてくれただけで救われた。だから、お礼だよ」

そうか、分かった。


僕は自分のために天草を利用し、天草は自分のために僕を必要とした。

何かに利用するためには何かを必要としなければならない。

需要と供給が互いに上手く噛み合った。

まさに同罪の同類で似たもの同士という訳か。

僕もアレだが天草もなかなかどうして。

日常の割に変な人間多くないか?

まぁ、いいか。


「はっはー、本当の本当に私なんかを友達に選んでくれてありがとう」

なんかって言うなよ、僕もお前と友達になれて嬉しいんだから。

「それは《今の君》だろ?」

そう、その通り。

「では、《日常》という仮面を剥いだ君は、どう思っているんだい?」

それは―――。

「私はその《日常の君》と、友達になれて嬉しいんだ」


「何でもない誰でもないキャラでも仮面でも日常でも非日常でもない君は、どう思っている?」




「その君に私は惹かれたんだ。恋人として―――真中実の隣にいても良いかな?」

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