ラブ・サイケデリック
【赤黒い日記帳】
○月×日 晴れ
太陽は私を照らす。
今日も私は絶好調!
合計△△分△秒、愛を囁き合う。
合計□□回、愛を確かめ合う。
気の優しい彼は、みんなに親切。
だけど、私を特別に扱ってくれる。
私を贔屓し、尊重し、一番としていてくれている。
照れ屋な彼だから、口に出さないだけ。
そうだよね?―――いや、そうに違いない。
私が一番だよね?
○月×日 晴れ
太陽の光が邪魔。
私の気分が悪い時に、無駄に私を照らすな。
今日の放課後……。
彼のあの表情は忘れられない。
焦っているような、望んでいるような、複雑そうな必死な表情―――私には向けた事が無いのに。
それだけでも悲しいのに……。
彼は愛しているはずの私の事なんて目もくれず、話しかけた言葉を受け取らず、私を無視して走り去ってしまった。
相思相愛―――お互いに愛し合っているはずなのに……。
そして、私は見てしまった。
放課後の屋上で、彼が女の子と楽しそうに話しているのを……。
裏切り者。
違う、彼が裏切った訳じゃない。
だって、彼は私を一番に思っているはず、そうじゃないとおかしい。
そうでしょ?そうだよね?そうに決まっている。
彼は私と結ばれる運命なんだから。
じゃあ何が悪くて誰の責任?
―――あの屋上の女。
―――あの女が悪くてあの女の責任だ。
あいつしか考えられない。てか、考える前にあいつしかいない。
許さない、絶対に。
私も彼も悪くない。
全ては、あの女の……。
【対峙】
「へぇ、これかい?」
あぁ、と机の上に置いた数枚―――いや、数十枚の手紙を眺めながら答える。
可愛らしいレターセットで作られていたり、ノートの切れ端で作られていたりと、様々な種類の手紙。
こんな大量の手紙を貰う出来事なんて、思い付かない訳で―――それが僕の机の中だったり、下駄箱の中に入っていた。
しかも、一日に数枚も。
それだけでも問題なんだが、本当に問題として挙げなければならないのは、手紙の文面―――その内容だった。
《伝説の木の下で待ってるから》
《今日の放課後、体育館裏に来て》
このレベルなら可愛いものだろう。
うちの学校には、伝説の木なんてものは存在せず、馬鹿正直に体育館裏へ行ってみても誰もいなかった事は別として。
《あなただけを見ています。どんな時でも、どんな場所でも……》
《毎分毎秒あなたを想い、毎回全開であなたの事を考えています》
おやおや、熱烈なラブコールなのか、空気が変わってきたぞ?
《裏切り者、裏切り者、裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者》
《私のことが一番好きなんだよね?むしろ愛しているんだよね?そうだよね?そうに決まっているよね?》
《許さない許さない許さない!!!あの女を絶対に許さない》
ホラーですか?これはおぞましい。
何に対して裏切ったのか見当もつかないし、《あの女》って誰だ!?
世界は今日も謎に包まれている。
誰か名探偵を連れてきて欲しい―――僕にはお手上げだし、この面倒な問題を棚上げにしたい。
うん、これは穏やかじゃないな。
早めに問題を解決しなければ、僕の日常が狂い歪んでしまう。
不安や動揺が冷や汗に混じり滲んでいく。
放課後の教室に差し込む夕日により、僕の情けない心模様が、透けて影となる。
「ふぅ―――そういうことか」
困惑している僕を差し置いて、目の前の天草は何かを察したかのように視線を向ける。
「なんとなく状況と、今置かれている立場が理解出来たよ」
おぉ、流石だ。誰かさんと違って基本性能が高い!少し分けてくれ。
「はっはー、褒めてくれて感謝だが、これは君の察しが悪いって可能性はないかい?」
えっ?どういう―――僕の頭の上に『?』が乱舞している。
それを少し呆れながら天草は話を続ける。
「まぁ、君のいろんな可能性は後日にして、今回の出来事はなんとかなるかもしれない」
ほ、本当か!?少し前のめり気味に聞いてしまう。情けないにも程がある。
「あぁ。では真中君、解決のために一つ提案を呑んで貰おう」
天草の表情がやけに真面目で、僕は少し圧倒され姿勢を正す。
「大した提案ではないのだけれど、ね?」
「私に全てを任せて貰えないだろうか?」
天草が一人で解決させるのか?
その提案を呑むのはやぶさかではないが、僕も手伝った方が良いのではないのか。
だって、これは―――。
「私の問題でもある」
僕の言葉を遮り、天草は続ける。
「勿論、君の問題なのだが、私にも大いに関係し問題がある。」
『標的は君ではなく、私という訳さ』
僕ではなく、この出来事を起こした人物へ向けるかのように、小さく呟く。
相談しておいてなんだが、問題の丸投げは気が引ける……罪悪感が募る。
「そんなに悩まないでくれ。危ない事件って訳じゃなければ、名探偵が必要な本格ミステリーって訳でもない」
「どこにでも有り得る、只の《日常の出来事》さ」
「私が戻るまで、教室で待っていて欲しい」とだけ残し、天草は教室を後にする。
取り残された僕は、机の上に散らばった手紙を片付けながら思う。
あいつなんか怒ってなかった?
口調やテンションは普段通りなのだが、目が一切笑っていなかった。
なんか気に障ること言ったかな?
そんな見当違いの真中は棚に丸投げにして、ここからは天草奏の視点へと切り替わる。
「盗み聞きとは感心しないな。そんなに必死になって―――みっともない」
親愛なる真中君を教室に残し、扉を開け廊下から必死な形相で盗み聞きに勤しんでいる相手へ向けて言い放つ。
「……」
相手は何も喋らない。
あるのは私への憎しみの感情だけ。
「さて、真中君に聞かれてもアレだから、場所を変えようではないか、ねぇ?」
「《隣の席のユーモラス女子》担当の桜花 舞香(おうか まいか)さん。私のキャラを崩した責任でも取ってもらおうかな」
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