異なる視点、異なる目線
【赤い日記帳】
○月×日 晴れ
朝の天気に相応しい太陽の光を浴びながら、私の楽しい1日が始まる。
ウキウキが止まらない―――だって、学校へ行けば《あの男の子》に会えるから。
髪のセット良し、メイク良し、太陽に負けないぐらいの笑顔良し、死角ナシ!
もう、ソワソワを抑えられない。
朝食なんて食べてる時間が勿体無い。
学校へ行こう。
私が学校へ行く理由―――《あの男の子》に会えるから。
今日は合計何分くらい話せるかな?
今日は合計何回くらい目が合うかな?
私の日常とは《恋》と言っても過言ではない。
○月×日 曇り
薄暗い空、太陽は一人でかくれんぼ。
今日は私の勝ち。
ポカポカとした気分、太陽を超えるキラキラとした高揚感。
満開の桜の風景をも凌駕する私の心のトキメキ。
今日は合計△△分△△秒、お話出来た。
今日は合計□□回、目が合った。
幸せ―――うん、これは幸せ色だ。
恋色、幸せ色、私の名前みたいに華やか!
これで、また明日も元気だ!
頑張れ私!恋する乙女!
【ひとときの風景】
クラスの女子A(以下、A)「あ、あの…天草さん、このプリントなんだけど―――」
「……」
A「そっ、そっか……分かった」
担任教師(以下、担)「じゃ、天草。この文章を読んでくれ」
「……」
担「お、おい!天草?」
「……」
担「えっと、天草。いい加減に―――」
「……(死んだ目)」
担「た、体調でも悪いのかな?よし、変わりに先生が読もうかな……」
クラス男子B(以下、B)「……」
「……」
B「ん、ナンデモナイデスヨ?」
天草(以下、天)「はっはー、我が同士の真中君。今日も今日とて素敵に楽しい会話を繰り広げようじゃないか!」
「露骨すぎじゃないか!?」
天「えっ、何の話だい?」
「もういいです」
【迫り来る日常】
真中実の日常―――今まで過ごしていた日常は、僕とは関係の無い日々の連なりによる日常に侵食された。
その結果といえば相も変わらずなのだが。
新たな日常である―――天草奏に看破されてしまったものの、未だに僕は静かに薄く行動に出ている。
天草も、最近は特に確認してはいないが、きっとそうだろう。
何を行っているのか?―――簡単に言ってしまえば《キャラ作り》だ。
別に相手に媚びている訳ではなく、あざとい行動をしたい訳でもなく、打算的に誰かと接したいという訳でもない。
全く計算が無いというのは嘘になってしまうが、誰しも他者と接する際に、少なからず相手に合わせてしまったり、その場の空気に習って動いたりしてしまうものだ。
先輩、後輩、友達、恋人、家族―――それぞれの扱いに差が出てしまう。
それは当たり前の事であり、しょうがない事なんだと思う。
誰もが誰も《仮面》を付けて生きている。
主人公でも脇役でもない僕は、少しでも変化したくて、特別な何かになりたくて、仮面を付けていた。
天草ほど極端ではなく、設定も漠然としていて雑だったので、本当に仮面を付けていたのかと、今になると疑問が脳裏を過ぎってしまうのだが……当時の僕は、僕なりに本気で全力で全開だった。
必死に新しい自分を思い描いていた。
懐かしむ程の昔ではない―――言うならば最近の出来事だ。
今はそうではない。
天草に看破された後は、自分の身の丈を測り直し、自分の感覚の物差しを正し、あくまで穏便に自分のまま、今あるこの日常を壊さないように、距離感について仮面を付けている。
まぁ、僕なんかの設定じゃ雑な感じは否めないけど。
距離感―――他者だったり、空気だったり。
だから、今置かれている現状の空気はなかなか辛いものがある。
悪目立ち……ため息しか出ない。
早めにこの空気を変えないと―――空気の入れ換え、空気を清浄にして正常に戻さないといけない。
プ○ズマクラス○ーにでも頼りたい気分だ。
それに―――。
そんな事を考えてたのは授業中で、今は放課後である(僕は授業を何だと思っているのだろう)。
僕は閑散とした教室で《同士》と空間を共有している。
それが、素敵に愉快な会話をしているのであれば嬉しい限りなんだが、そうじゃない。
僕は天草奏に、とある相談をしていた。
僕宛であろう数枚の手紙が全ての始まり。
僕の生活に、新たな展開を知らせる便り。
ままならない日常に弄ばれている僕は、悲しいかな―――頼りになりそうにない。
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