橙の空、それから

「お待たせ、親愛なる友人の帰還を心待ちにしていたかい?しかしながら、事件の解決は―――って、大丈夫かい?顔色が優れないようだけれど?」

お帰り。いや、別に何も無いけど……。

「うーん、どう考えても《何かある》気がするのだけれど」

いやいや、本当に何もないから、ね?こんな放課後の教室で何かあったら、それこそ問題だろ?お化けの可能性も皆無さ。

「なら良いけど」

そんな事より、そっちはどうだったんだ?

「こちらも正解とは言えなかったよ。手紙の件とは別の情報は手に入ったけれど、それとは無関係だしね」

そうか、しょうがない。

「相談された身ではあるが、頼りにされた嬉しさで、自己の力量を見誤り、調子に乗って『任せてくれ』なんて大それた事を言っておきながら、結果はこのザマ……不甲斐ない限りだよ」

何言っているんだよ。感謝しているんだぜ、こっちは。

僕一人では手に余るような悩みを聞いてくれて共有してくれただろ?それだけで十分だ―――ありがとう、天草。

「な、泣いてもいいかい?」

おい、泣くのは勘弁な!?泣く理由が分かんねぇよ、僕には。

「ははっ、大した役には立たないだろうけど、これからも仲良くしてくれたら嬉しいよ」

改まって言われると、なんか照れるな…。

夕日が沈んできたおかげで、赤く染めた頬を見られずに済んだ。

何も解決には至らなかったけど、時間も時間だからそろそろ帰ろうか?

「そうだね、帰ろう」


空が夜へと衣装を変え、薄暗くなった道を僕らは歩く。

何故か足取りは重く、今の気分を反映させているかのようだ。

僕は里見さんとの出来事を、天草に話さずにいる。

これ以上、心配させないように。

件の里見さんはというと、『顔と名前だけでも覚えてくれたら嬉しい』を強調し、意味深な言葉だけ並べて天草が戻る少し前に去っていった。

なんだったんだ、一体。

何か悪い事したっけ?

僕の日常を壊す―――何をする気なんだ。

出口の無い迷路をさまよっているようで、気持ち悪い。

僕には色々と荷が重すぎる。


それから数日、里見さんの襲来を気にしつつ戦々恐々としていたが、日常は日常のまま変わることなく平穏を保っていた。

おいおい、思わせ振りな事をしてくれるじゃないか……あんな壮大に現れたくせに。

印象が強すぎて、完全に顔と名前覚えちゃったよ!

扱いづらいキャラだったけど、綺麗だったし……綺麗だったし。

あれ、僕の周りに可愛い女の子が増えていく―――何このラノベ展開!驚愕の事実だ!

えっ、この世界って本当にラノベだったのか!?じ、じゃあ、このままハーレム展開なのか?オラ、ワクワクすっぞ!

はい、妄想はこのぐらいにして、僕の日常も少し前に比べると、だいぶ景色が変わったな。

色合いが変化したというか、なんというか……。

捌ききれるのか?平凡なこの僕に。

別に捌けなくても、流されて揺られてなるようになるんだろう。

なんとも、情けない話だ。


「ねぇー、ミーの話聞いてるのぉ!?」

ハッ!?えっ、あ、あぁ……モロチン!

「動揺して下ネタになってるよ!完全に聞いてなかった事が証明されたねぇ?」

申し訳無い。

「もう、しょうがないなぁ。ほっぺにチューで許してあげるぅ」

あぁ、悪い。チューは無期限で出張中だったんだ。タイミングが悪かったなー、僕もチューしたかったんだけどなー。

「じゃあ、ミーとなんで目合わせないのよ…バカッ」

そう言えば、里見さんと出会った辺りから、桜花舞香の僕に対する態度が変わったように思う。

モロ○ンではなく勿論、なんとなくそう思っただけで信憑性はない。

だけど、以前と比べると―――何かが違う。

前よりフレンドリーになったというか、相手の僕に対する距離感が縮まったというか。

何かあったんだろうか?

ま、まさか!あいつ僕に惚れた……!?

うん、無いな。勝手な妄想失礼しました。

最近の僕は思い込みが酷くて困る。

「おやおや、仲良さそうで何よりじゃないか、ん?」

桜花と適当に話していると、天草が横槍を入れてくる。

えっ、おい、天草が他者に干渉した、だと!?

「さて、私も会話に混ぜてもらおうかな?友達を仲間外れにしないよね、真中君?」

あぁ、それは構わないが。

「ちょっと邪魔しないでくれる!?ミノルはミーと楽しくお喋りしているの!」

なんか、桜花の口調も変化してるし。

「別に私がいても問題無いだろ?あれ、何かい?私がいると話せないような内容なのかい?」

「そうじゃないけどぉ、前に邪魔しないって言ってたじゃん!あれは嘘なの!?」

「嘘ではないよ、邪魔はしない―――しかし、応援もしないと言ったのは覚えているかい?」

「なんなの、この女!?」

「そっくりお返しするよ」

あの、なんで険悪な雰囲気!?

僕の存在が空気になっていく。

お二人さん、仲悪すぎるだろ!ってか、いつ知り合ったんだよ!?

はぁ、空気な僕は席を外しますね。

二人の口論を余所に、僕は静かに席を外し教室を出る。


「お困りですか、お客様?」

教室を出て、すぐに声をかけられる。

二階堂中―――僕の友達。


久々の二階堂との会話に、花を咲かそうじゃないか。

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