ナイショの話、ヒミツの話

僕と二階堂は、中庭のベンチに腰掛け昼食がてら話をする。

毎日のように教室で顔を合わしているのに、何故か懐かしさを感じる。

相変わらず量の多い弁当を食べながら、二階堂は僕へ向けて言う。

「―――で、本命は?」

こいつはオブラートに包んだ発言を知らないのだろうか?最初からコレかよ!

「モテ期真っ最中の真中は、誰を狙っているんだ?」

ニヤけた顔で、こいつ…楽しんでやがる。そんな悪い子に育てた覚えはありませんよ!

「そりゃ育ててもらってないからな」

苦笑はしたが、話は勿論終わらない。

「流石に気付いているんだろ?」

何を気付いているって?

無駄な抵抗を試みる。

「鈍感系はもう古いんじゃないか?」

無駄で無謀だった。尺稼ぎにもならない行為―――無力だな、僕。

「ははっ、真中にも弱点あるんだな、嬉しいよ」

弱点しかない僕に何を言っているんだ?全身が急所でお馴染みなんだぜ!?

「で、結局どうなんだ?」

分かったよ、答えればいいんだろ?

予想で推測の憶測はしていたよ。

天草はどうだか分からないし微妙だが、桜花は僕に好意があるんではないかと。

「だよな、俺もそんな気がしてたよ。桜花さんは真中の事好きなんだろうなって」

まぁ直接言われた訳ではないので、あくまで予想で予感なだけだ。信憑性もあったもんじゃない。

「天草は、どうなんだろうな?」

うーん、どうなんだろ?憎からずは思っていてくれているとは思うけど。恋とか愛とかではない気もする。

天草は《友達》ってモノを尋常じゃないくらい重く捉えている感じだから、友情としての好意とも取れるんだよな。

『Like』であって『Love』じゃない―――まさか、こんなテンプレ台詞を言う日が来るなんて、予想にもしていなかった。

「そっか、なるほど…で、真中の気持ちはどうなんだ?」

こいつはグイグイ人の心に踏み込んで来るな、真っ直ぐな奴だよ。

僕の気持ち……さぁね。

今まで考えもしていなかったから、急に答えは出ないよ。

恋愛事は得意じゃない。今風に言えば、草食系男子って言うのかな?

恋愛の経験値が低すぎる故か、少しばかり考える事を遠ざけていたらしい。

「悩み多き年頃。まさに、青春してるじゃん」

思春期みたいに言うな!茶化された、恥ずかしい。

もういいだろ!僕の事はこれで終了!で、お前はどうなんだよ?

「俺か?好きな子はいるけど、特に発展も無いしな」

相変わらずの直球。恥ずかしさは無いのか!?

「いや、多少の気恥ずかしさはあるけど、真中だし」

僕だから何だよ!信用されているのは嬉しいが。

好きな子って誰なんだ?タメの子?

「―――お前」

ええええええっ!!!

「勿論、嘘だけど」

デスヨネー!

なんだ、こいつの急に来るBLネタは!?腐男子だったり?

「何それ?」

説明は割愛させて貰うわ。

「気になるじゃん!教えろって」

だが、断る!!!


そんなこんなで、昼休みが終わるまで、二階堂との会話が続いていく。

何気ないやり取りと、違和感の無い交友関係。

だけれど僕は、二階堂には言っていない事がある。

天草にも桜花にも誰にも言っていないこと。

言う必要をあまり感じないし、言ったところで大した内容でもない。

聞かれても答えるつもりも無いのだが。

まぁアレだ、人それぞれ色々と思う事がある的なノリのヤツということで。

誰にだって言いたくない事ぐらいあるだろ?

僕は自分を誤魔化し、自身を被りながら生きている。




「やっぱり《らしく》ないよね」

「ですね、アホ丸出しって感じです」

「あたしの事も完全に忘れてるし―――困ったものだよ、実ちゃんには」

「僕の事なんて問題外なんでしょうね。悲しいものです」

「そろそろ日常という夢から目覚めてもらおうかな?」

「ですね。あんな姿の彼は、もう見たくないですからね」


動き出す思惑と駆け巡る青春。

誰かと誰かの会話は、真中実の《日常》に何をもたらすのか。

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