謳歌する日々

《現実は小説より奇なり》


とかなんとか、どこぞの有名な小説家だかなんだかの言葉があるけれど、僕はこの名言みたいに扱われている有名な言葉に苦言を呈したい。

この後に、批判にも似た言葉の羅列が繰り広げられるとは、自分でも想定外であり予定外なのだがどうだろう?

少なくとも僕はそう思う。

どう思う?何を思う?僕はこう思う。


どう考えても―――

『現実なんかより、小説の方が奇である』と。


この平凡で平坦な、少しの幸せとそれなりの不幸を兼ね備えた日々の連なり―――日常という現実を生きている、僕みたいな一般平均日本代表な奴から言わせて貰えるならば、ノンフィクションな、現実に起きた事件・出来事を書いた作品を例外として、基本的には小説は創作物であり、現実とは完全にリンクしていない。

まさに《この物語はフィクションであり、登場する人物・団体・その他名称とは一切関係ありません。》とかいうアレだ。

ならば、現実とリンクし完コピな作品を作る必要が無い訳で、現実の一部を改変してアレンジしたり、全てを想像し自分の理想に近づけたオリジナルな作品を創作しても良い訳だ。

だったら、面白おかしくしたり、逆にしんみり出来るぐらいシリアスにしたって構わない―――言い換えれば作者の好き勝手に物語を作れるという事になる。

ほら、答えは簡単。

そういった物語が広がる小説が、日々の繰り返しである現実に負ける訳も無く、摩訶不思議で奇妙奇天烈なのは小説の方と言えるだろう。

例の言葉を発した人物が、どれだけ面白おかしい人生を歩んでいた所で、フィクションには及ばないと、僕は勝手ながら断言させてもらおうと思う。

断言するほどの事でもないし、僕なんかが何を言ったところで影響力は無い。


影響力があろうと無かろうと、僕がする事は変わらない。

日々を安らかに静かに過ごす事だ。

トラブルを最低限に抑え、イレギュラーを限りなく排除する。

健やかにのんびりと日常を謳歌する―――素晴らしい日々だ。

退屈と言われようと、簡素と言われようと。

ハラハラドキドキなのは、漫画やアニメの世界で十分ではないだろうか。

まずは、しっかりと日常を過ごす。

日常をまともに過ごせない人に、非日常は捌ききれないだろうし。

だから僕は日常を謳歌する。

地味で結構、退屈で満足だ。


そんな事を考えながら僕は、ある人に会うために校舎の廊下を歩く。

屋上にいる里見紗都未に突然呼ばれた事がキッカケ。

『あの人と話すと面白いんだけど疲れるんだよな』なんて思ってみたりする。

屋上へ着いて周りを見渡す―――あれ、いないぞ?

そこに里見さんの姿はない。集合場所間違えたかな?

すると突然―――。

「だぁれだ!!!」と、大声と共に後ろから両目を塞がれた。

わぁっ!心の中で動揺しながら、冷静なフリをして口を開く。

驚かせないで下さいよ。心臓に悪い。

「すまないすまない、心臓に重い病を患っているのを失念していたよ」

勝手に病気キャラにされても困るんですが。

「でも、面白かったろ?あたしが普通に屋上で待っているより」

それはどうかな、微妙なところだ。

「損なことは置いといて、急に呼び出して済まなかったね」

そりゃあ損なことは後回しにして捨て置きたいですが、正しくは『そんな事』ですよ。文章にしないと気付かないようなボケはしないで下さい。

「そりゃ失刑」

あなたの刑は無くなったりしませんよ。それを言うなら『失敬』です。

「よし、だいぶツッコミのスキルが上がってきたわね、嬉しいわ」

こちらの疲労も少しは考えて下さいよ、あなたは好き勝手にボケを披露するだけでしょうけど。

「しっかり理解出来ていて嬉しいよ!これからも精進してくだされ」

その前にあなたも反省して下さい。いえ、言っても無駄でしたね。

で、要件は以上ですか?

「そんな訳あるまいよ!こんなもの只のコミュニケーションではなくて?」

さいですか。

「こんな美少女に呼び出されたんだ、もう少し喜んでも良いんじゃない?」

(……)

「無言か。返答無しは肯定と受け取るよ」

ポジティブですね、流石と言っておきますよ。

「さてさて、急に屋上まで来てもらったのは他でもない、《あの事について》だ」

そんな気はしてましたけど。

「察しが良くて何よりだ。あたしとあなたが話す事なんて、《あの事》ぐらいしか今は無いだろう」

ですね、そうでした。

「最近では、変態紳士さんの件があっただろう?」

アレは大変でしたし、困惑しましたよ―――急にあんなこと、ねぇ?

「あれには爆笑を禁じ得なかったが、どうだった?」

どう?と聞かれても返す言葉が見当たらない。

「言葉に詰まるか、まぁいい。ところで」


「あなたは《真中実》じゃないのだから、あたしとちゃんと会話してくれないかしら?」


元々は僕の個性だったんですけどね……

「分かりましたよ、姉さん」

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