告白

僕は歩く―――日常を。

俺は歩く―――非日常を。

真中実は廊下を歩く―――目的地へ向けて。

放課後の廊下を歩き目的地を目指す。

到着した僕は、いつもと変わらない普段通りのままな平坦な口調で、扉をノックし声を出す。


里見先輩はいらっしゃいますか?


ここは先輩である三年生の教室。

僕は里見先輩―――里見紗都未に用がある。

弟の薫とは話したから、今度は姉の紗都未ちゃんと腹を割って話さないと。

「あ、はっ、はい!」

教室の奥の方から、驚いたのか声が少し裏返りながら返事をする里見先輩の姿があった。

「ど、どどどうしたの!?突然何の用かしら?」

動揺を隠しきれていませんよ?

突然すいません、ちょっと僕にお時間を割いてくれませんか?

「えっ、あ、あぁ良いわよ?こちらもあなたに用がありますから」

それは話が早い。では屋上までエスコート致します。

この物語は本当に屋上好きだな。なんて、察しても口に出さないのが大人のマナーとか思いながら里見先輩と屋上まで歩く。

里見先輩は終始ドギマギしながら少し俯いている。

最初に登場した時の威勢はどこへ行ったのだろうか?

まぁいいか、どちらでも。

屋上へ着いた僕達は、少し曇った空を見ながら風に揺られ黙る。

沈黙が苦手なのか、里見先輩は変わらず落ち着かない様子―――僕は平坦で冷静のまま風を感じている。

すると、里見先輩が小さな声で喋り出した。

「薫との事、聞いた」

まぁそうでしょうね、予想通りです。

「実ちゃんが昔と違う、《平凡》なキャラを求めた事については、正直あまり納得出来ないけど理解はした」

それは何よりです。

「あたし達の事を忘れている体だったのはショックだった」

はははっ、すいません。

「驚かそうとして強気で行ったのに、全然相手にしていない感じで悲しかった」

アレにはビックリしましたよ?あまりに急だったので。でもあれ以来、全然僕に接点を作ろうとしませんでしたね?あ、変態紳士さんの件がありましたけど。

「だって・・・だって本当にあたしの事を忘れている感じで素っ気なかったし、昔の薫の平凡キャラを習得したせいで、誰も相手にしていないような口調と姿勢だったから」

それにしたって、もう少しは―――。

「昔に一回避けられてるから…アレだって突然の出来事でパニックになって大変だったんだから!当たり前で当然の毎日が急に壊れるんだよ?なかなか立ち直れなくて」


「その経験があるから……また避けられたり嫌われたらどうしようって」

そうだったんですか。昔の件については本当にすいませんでした。

「あの時は一方的に避けられちゃったけど、そろそろ時効かなって勇気出して頑張ったんだから」

そろそろ時効、か。

「ねぇ、昔は薫と三人でよく遊んだよね。走り回って色々して楽しかった」

無茶な事いっぱいしましたね。

「楽しくて愉しくて素敵だった。毎日が輝いていて昨日が名残惜しくて今が永遠に続いて欲しくて明日が待ち遠しかった」

「あなたのすぐ後ろを追いかけて薫を振り回して―――こんな楽しい生活が当たり前で普通になっていて、あたしの日常になっていた」

日常ねぇ…。

「あたしは昔から落ち着きの無い子供で、よく親に怒られていた気がする。でも何度怒られても懲りなかったし、身体から溢れる衝動みたいなモノを解消して昇華させたかった」

「周りの人が、あたしを差し置いて楽しい事をしているのが気に入らなかったし、何か面白い出来事があれば輪に入りたかった」

「『毎日を楽しく送りたい』それだけを考えて生きていたと思う。だから、あたしが体験出来ない面白イベントは許せないし、知らない土地の知らない環境で面白い事をしている人がいると思うと、涙が溢れるぐらい悲しかった」


「そんな時に、あなたと出会った」


「やんちゃで単純で大胆で落ち着きがなくて破天荒で、その割に誰にでも優しくて―――そして、あたしと同じで素敵に愉快を求めていた」

「元気を具現化したような年下のあなたと出会って、同じ思考の似た者同士であたしは救われた気がした。大袈裟に聞こえるかも知れないけど、本当に救われた気分だった。一人では限界があって大した事も出来なかったけど、あなたと二人ならって」

二人なら―――。

「一人じゃ無謀で困難だって二人なら何とかなるかもしれない。只の二人なら出来ない事も、あなたとなら出来るって思えた」


「本当だよ?そのぐらい嬉しかった、あなたと出会えて」


「だから、その、えっと…む、昔に言えなかった事を伝えてもいい?」

どうぞ。


「あたしは昔から今でもずっと真中実が好きです。あなたが大好きです。避けられても好きという気持ちは変わらなかった。だから―――」


「だから、また一緒に素敵に愉快で楽しい非日常を探そう?」

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