同時刻、異なる視点

【×××】


私は物静かで何処にでもいるような、少しばかり暗い女子高生である。

自己紹介で『暗い』というキーワードを入れてみたのだが、自分で言うとなかなか悲しいものだ。

しかし、何が一番悲しいと言えば『暗い』のを否定出来ないこと―――そう、私は暗い。

決して未来がお先真っ暗という意味ではないのだが、我がクラスメイトと比較しても、世間一般の女子高生と比較した所で私は暗いと言い切れる。

どのように暗いのか、判断しやすいように具体例を挙げる事にしよう。

まず、私には友人と呼べる人間や、知人といった他人より多少の関係性がある人間が周りに全くいない───砕けた言い方をすると『友達がいない』のだ。

少ないのではなく―――いない。

いないのでなく―――全くいない。

皆無と言っても大袈裟ではないだろう。

生まれてから、いろいろと人間的に育ってはきていると思うのだが、人間関係の対人関係だけは育てる事が出来なかった。

『友達を作ると人間強度が下がる』という中二的思想は全く無いけれど、結果だけ見るとご覧の有り様だ。

友達作りに精を出した事も無いのだから、当然の結果といえよう。

では次の例を挙げると、私は『無口』なのだ。

まず喋らない。学校の中、教室のクラスの中で私は沈黙を守っている───貫いている。

その努力の賜物により、余計に友達がいないという事態に陥っている訳だが。

クラスメイトに話しかけられても、首を上下左右に振るだけ、授業の際に教員に指名されても「わかりません」の一点張り。

言葉を発して反応する動作を私は限界まで抑えている。

そんな訳で、私は自分への評価を暗いと言ったのだが、お分かりになられたかな?

誰へ向けてなのかは定かではない。


教室の端で読書を嗜み、誰とも会話をせず淡々と日々を繰り返す。

それが私であり───高校生活での私。


さてと、授業中にこんな思考をして、退屈を紛らわす行為にも飽きてきたな……

唐突ではあるが、私と同じ事をしているクラスメイトの《同類》へアピールを開始でもしようじゃないか。

こちらはいつでも準備万端なんだよ?

気付かないとでも思ったかい?

君は、地味な私をちゃんと把握しているかな?


私の本当の意味での《友達作り》の始まり始まり。




【茶番劇】


時に、今でも昔でもこれからでもいつでも良いのだが、《特別な何かになりたい》と考えた事はないだろうか?

正義のヒーローや魔法少女や悪の大魔王などの大それた事や、芸能人やスポーツ選手などの煌びやかなテレビの中の人々(この表現はもう古いかな?)、周りにいるようなイケメンや秀才やお洒落な人々、分かり易く漠然と大金持ちになりたいとか、輪の中心となる人間性に憧れたりとか、いろいろあるだろうが―――そういう事を考えたりしなかっただろうか?


恥ずかしながら、僕は《ある》と断言出来る。


夢見がちで中二病と言われればそれまでだが、みんなも少なからず考えたりしたと思う。

余りにも自己に自信があるのであれば話は別だが、人間とは自己評価を低く設定すると独断と偏見で決め付けているので、その場合は、足りないものを補おうとして、世間一般に収まらない存在や、周囲から浮き出た人物、最低でも平均以上の能力や性質を求めたがるもの―――人間としては、ごく当たり前の欲求ではないだろうか。

足りないものを補う。

そんな存在に変化する。

新しい自分に生まれ変わる。

存在の同期。

要は無い物ねだりな訳だが、案外真面目な話だったりもする。

無い故に求め、無い故に誤魔化し、無い故に有ろうとし、無い故に為そうとする。

何故急にこんな話をしたかと言うと、それは……


「おい!聞いているのか!」

クラス中に響き渡る声で、僕はハッと現実に戻る。

隣の席のユーモラス女子が、慌てた様子で僕の席を軽く叩いていたので、何となく黒板のある前方へ目線を移動させると、先生が鋭い視線を向けていた。ヤダッ、照れる……

先生の発言、女子の慌て様、各自のアリバイなどから推理を行い、ミステリー小説に登場する名探偵よろしくズバッと先生に、この事件の真相をドヤ顔で言い放つ。

……事件は解決し、犯人は捕まり罰を与えられた。

僕は廊下に立たされている。


真実は一つだった。

名探偵も犯人も同一人物なんて、とんだエコロジーもあったものだ。


しかし、今の時代にも廊下へ立たされる事なんてあるんだな。

僕は授業が終わるまで、懲りずに思考の海へ潜っていく。

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