歩く道と隣の席

自分とは関係無い移り変わる風景を横切ったり遮ったり、なんだかんだしながら学校へ向かう。

普段通りの普通でありふれた街並み。

昨日と変わらず今日も今日とて変化はない―――明日もきっと何も変わらない風景なんだろう。

決して不変が嫌という訳ではないのだが、何か味気無いというか寂しいというかなんというか……

そんな事をぼんやり考えながら歩いていると、ポンっと後ろから肩を叩かれた。

「よう、おはよう」

聞き馴染みの声に反応して、後ろを振り向くと、そこには…まさかの!?

「そんなにハードルを上げられても困るんだが……」

困惑した表情で苦笑しているは、この男。

クラスメイトであり、僕の友達であられる、二階堂 中(にかいどう あたる)。

そこそこイケメンで、運動部に所属している爽やかな奴だ―――僕より彼の方が少し背が高い、誠に悔しい限りである。

そんな彼と適当に挨拶を交わし、一緒に学校へ向かう事になる。

友達同士のくだらない雑談に花を咲かせながら歩いていると、二階堂は僕に突然こう言ってきた。

「お前ってホント元気ってかフレンドリーだよな」

脈略が無いだけに、首を傾げるのが精一杯だった。

「だから、お前の事さ。誰に対してもフランクに接してるし、元気バリバリじゃん?」

バリバリって言われても困るのだが……

「俺みたいな人見知り野郎から言わせると、お前のその誰とでも仲良くなれる《才能》が羨ましい訳よ」

……才能、ね。そう見えるのか。

まぁ、フランクフルトはあまり食べないし、麺の硬さでいうバリカタは好きじゃないから、あまり俺には関係無いのかもしれない。

「へっ、まぁこんな話はどうでもいいよ」

どうでもいいのかよ!?

思わずツッコんでしまう僕なのだった。

少しくすぐったい思いに駆られ、赤面した顔を隠しながら咄嗟に話を変える。

親愛なる友達は何とも言えない笑顔で、変えた話題に乗ってくれた。

僕の眠気は払拭された。

お前じゃなくて可愛い女の子に起こして貰いたかったよ、なんて思ってないんだからね。


ナンダカンダ叫ぶ必要が無いまま、学校に到着。

僕が通っているのは、可もなく不可もなく何とも言い難いレベルの県立高校で、まさに普通だ―――それ以外は特に言う事ないので高校の説明はこの辺にしておこう。

そんな訳で、二階堂と共に教室へと入る。

「おはよう!」という声に答えながら、自分の席に座る。

うちのクラスはバラエティー豊かな面子が多いので、朝から元気ハツラツなのだ。

「とんだしゃべり場だな」とか考えていると、隣の席の可憐な女子が僕に気さくに話し掛けてくる。

「オハヨウさん、ミーの事を『可憐な女子』なんて思ってくれているなんて嬉しいねぇ。チューしてあげよっか?」

地の文を勝手に読み取るな、僕はサトラレなのか!?

「……はぁ、おはよう」と、短く返す。

「ツッコミはするけど否定はしないんだねぇ。ホラ、目閉じてぇ?」

うるせぇ!お前の口を綴じてやろうか?

「きゃはっ、真中君コワーイ」

うん?あれっ、真中君……誰だっけ?

「何を言っているのかな?君に脳ミソが無い事実にようやく気付いた?」

オイ!ツッコミに紛れて罵倒しただけだぞ。

「真中 実(まなか まこと)。君の名前でしょ?忘れちゃったかなぁ?あ、今になって名前付いてない事に気付いた?」

メタなこと言うな。べ、別に忘れてた訳じゃないんだから……

「『実』って字は『みのる』って読みがちだけど、『まこと』なんだからシュールだよねぇ。真中 実―――地味(ボソッ)」

地味とか言うな!名前なんて大体地味なもんだろ?

「今日から『ミノル』って呼ぶね」

紛らわしいわ!勘違いされるだろ!

「ねぇ~ミノルぅ~」

……うぜぇ。

「ミノルはホントにツッコミだけは腕白なんだからぁ。ツッコミ症候群?」

勝手に謎の病名を僕に与えるな!

何でもかんでも病名が付く事に僕は否定的なんだ。

「ミノルは只の中二的な残念な欠陥……いや、疾患だもんねぇ」

欠陥って言ったろ、聞こえてるぞ。しかも中二病じゃねえよ!目や手に異能が封印されてもないし!お前の中で勝手に僕を中二病を患っているキャラにするな。

「はいはい、遺言は以上ですかぁ?」

俺を死の淵に追い込むな!遺産目当てか?いや、まさかっ、僕に多額の保険金を……!?

「あ、そろそろ先生来るから、ね?静かにしてくれると嬉しいなぁ。これ以上五月蝿いと大概だよぉ?」

僕は五月蝿くないし、大概なのはお前だ!

「きゃはっ」と如何にも作ったような笑い方をして、勉強用具を取り出す彼女を見る……溜息しか出ない。

すると、すぐに先生が教室に入ってきたので、僕も慌てて勉強用具を取り出す。


僕は何も患っていないのだが、何かに煩っているのは確かだった。

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