アネモネ

緋月

おはよう。

『現実は小説より奇なり』


とかなんとか、どこぞの有名な小説家だかなんだかの言葉があるけれど、僕はこの名言みたいに扱われている有名な言葉に苦言を呈したい。

開口一番、まさに始まりであり、初めの僕の一人語りな台詞から批判にも似た言葉の羅列が繰り広げられるとは自分でも想定外であり予定外なのだが…どうだろう?みんなもそうは思わないだろうか?

誰に向かっての疑問系なのかは定かではないのだが、少なくとも僕はそう思う。

どう思う?何を思う?───俺はこう思う。


どう考えても―――

「現実なんかより、小説の方が奇である」と。


この平凡で平坦な、少しの幸せとそれなりの不幸を兼ね備えた日々の連なり───日常という現実を生きている、僕みたいな一般平均日本代表な奴から言わせて貰えるならば、ノンフィクションな現実に起きた事件・出来事を書いた作品を例外として、基本的には小説は創作物であり、現実とは完全にリンクしていない。

まさに《この物語はフィクションであり、登場する人物・団体・その他名称とは一切関係ありません。》とかいうアレだ。

ならば、現実とリンクし完コピな作品を作る必要が無い訳で、現実の一部を改変してアレンジしたり、全てを想像し自分の理想に近づけたオリジナルな作品を創作しても良い訳だ。

だったら、面白おかしくしたり、逆にしんみり出来るぐらいシリアスにしたって構わない───言い換えれば、作者の好き勝手な物語に出来るという事になる。

ほら、答えは簡単。

そういった物語が広がる小説が、日々の繰り返しである現実に負ける訳も無く、摩訶不思議で奇妙奇天烈なのは小説の方と言えるだろう。

例の言葉を発した人物が、どれだけ面白おかしい人生を歩んでいた所で、フィクションには及ばないと僕は勝手ながら断言させてもらおうと思う。

僕には例の言葉が、《現実は小説よりキラリ☆》という言葉遊びをして楽しむぐらいにしか感じられない。




「……うっ、うぅん、ふあああああ」

ジリジリンと、朝を告げる目覚まし時計に睡眠を邪魔されながら嫌々目を覚ます。

………ええええええ!!!

今の夢だったの!マジで!?もの凄い語っていた気がするんだけど!!!

怖っ!夢でドヤ顔してる雰囲気バリバリの中、色々語っている僕、怖っ!!!

おいおい、勘弁してほしいぜ…目覚めが悪いにも程がある。

体をバタバタと動かしながらベッドの上で苦悩する……格好悪いなぁ、僕。

「はぁ……」と、ため息をこぼしながら重い体を起こすのであった。


『お兄ちゃん!朝だよぉ~起きてぇ~』ってな具合に、可愛らしく起こしてくれる妹がいる訳でもなく、『朝だぞー、起きろー!』って元気な感じで起こしてくれる幼なじみの女の子がいる訳でもない。

一人で虚しく起きるだけだ。

人生は無情である。

まぁ、突然幼なじみと言い張る女の子が起こしに来られても挨拶に困るのだが(起きるのは僕ではなく事件だ)。

ぼんやりと曇った視界にサヨナラと顔を洗い、そのまま高校へ向かう準備を済ませる。

(………)

リビングで朝食を摂りながらテレビを見ていると、母親が忙しそうにドタバタと動いている。

「朝はやっぱ忙しそうだな」なんて、他人事全開でぼけっと眺めるだけだ。

すると、テレビに映る可愛い女子アナの声が僕の耳に入ってくる。

『昨夜、都内某所にて○○さんの遺体が発見されました。死因は自殺と見ており───』

(………)

物騒な事件ではあるが、僕はふと考えてしまう。

考えると言っても大層な事ではないが……


自殺するという行為は勇気が必要ではないかと。


最近では、自殺ではなく《自死》と呼ぶ場所もあるみたいだが───自分殺し、自己の死。事故の死という可能性もあるはある。

まぁ勿論、状況にも環境にも左右はされるが、自殺という《自分で自分を殺す》行為は、誰にでも簡単に出来る事ではないと思う。

なぜなら、死への不安や恐怖、自己を守ろうという防衛反応で結局は未遂で終わるか、そもそも行為に及べない人が殆どではないだろうか。

《自己の存在を自ら消す》なんて、僕には到底出来ない。

《作り変える》のなら、まだしも……

とか、真面目ぶった発言を少しばかりしてしまったが、ニュースに感化されただけの思い付きなので、忘れて頂いて結構コケコッコーである。

………笑うところだよ?


何故か、南極に置いていかれた気分になったがスルーすることにした。

さて、そろそろ学校へ行く時間になったかな……

時間には多少の余裕はあったが、この場所に滞在するのが苦しくなり忙しなく家を後にした。

べっ、別に発言が滑ったせいじゃないんだからね!学校が楽しみすぎて早く行きたかっただけなんだから!!!

……泣いてないよ?




本当の意味で泣きたくなる出来事が起こるのは、ほんの少しだけ先の話なのを僕はまだ知らない。

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