或る晴れた日に
面白可笑しくもない僕の日常に微々たる変化が訪れた。
訪問販売のベテラン営業マンのようにぬるっと、ヒロインの危機に颯爽と登場するヒーローの如くズバッと、僕の景色に新たな色が加わった。
「おはよう!親愛なる我が友、真中君」
彼女の名前は天草 奏。
先週初めて会話をして晴れて友達になった、自称無口の微乳系少女だ。
彼女の登場により僕のクラスでの色合いも変化があった。
先週まで無口無言を貫いていたらしい彼女が、朝から早々に口を開いたのだ。しかも、僕にのみ……。
これは恐ろしい事態になった。
何が恐ろしいって?おいおい、冗談は顔だけにしてくれ(嘘です、すいません)。
只でさえ今まで無口だった奴が、何の心境の変化なのか突然喋りだしたんだ。驚かない奴なんていないだろう?
しかも、全員に対して愛想を振り話すのならまだしも、対象はこの僕───真中実にしか徹底して口を開かない。
なっ?恐ろしいだろ?
みんなからの『お前何したんだ!?』という鋭い視線―――簡単に言えば、僕の悪目立ちが急上昇のナウピークなのだ。
悪目立ち……実に嫌な感じだ。
失礼な話、あまり冴えない女子ならば『ふーん』ぐらいの反応で事が済んだのだが、ご都合主義よろしく天草は顔の造りが整っている。
一言で表すと、天草は美少女なのだ。
そんな美少女が、僕に突然接近してくる。
興味が湧かない奴はウチのクラスにはいない。
はぁ……僕には荷が重い。
そんな裏事情なんて何のその、彼女は綺麗な黒髪ロングを惜しげもなくふわふわと揺らしながら僕の席まで寄り、またもや惜しげもなく、美少女スマイルを僕へ発揮する。
嬉しい事限りないが、これはなんの罰ゲームなんだい?周りの視線を見て御覧よ、特に男子!
『コ・ロ・ス☆』
あぁ―――アイコンタクトって本当に出来るんだ、相手の眼を見ただけで心の声が聞こえてくる。
「おや、聞こえていないのかい?」
あぁ、悪い。おはよう。すぐに思考を切り替え天草に挨拶を返す。
「いやぁ、朝から真中君の顔が見れて私は嬉しいよ」
そうかい、それは結構なこった。複雑な思いに駆られながら天草に答え会話を続ける。
お前と僕は確かに友達だ、だからこうして会話をするのは当たり前なんだが、他の連中とは話さないのか?
「当たり前じゃないか、友達じゃないからね」
だとしても、あまりに……。
「君とは同士であり、こうして友達になったんだ。楽しいから会話を交わす―――当たり前だろう?しかしながら、君も私も他の人に対して、相も変わらずアレを発動しているだろう?だから、私は君以外には無口な地味キャラを通している」
言っている事は分からんでもないのだが、それ、いろいろ矛盾しているというか、本末転倒じゃないか?
「はっはー、そう言われると言葉も無いが、細かい事はこの際置いておこう。些細な問題だ」
些細って……いいんだ、それで!?
僕もそうだが、お前もキャラがどんどんブレてるな。
「それは作者の腕が未熟なのが原因では?私に言われても挨拶に困る」
はい、ストップ!作者ってなんだ作者って!この世界は文学上の世界なのか!?
「いやいや、文学って、どう過大評価してもライトノベル止まりだと思うのだが、どうだろう?」
僕に聞くな。どうもこうも無いだろ?この世界は創作物ではないんだから!
「お、おう」
何その反応!?不安になるわ!え、マジで?この世界ってラノベだったの!?
「どちらにしても私と君は《友達》だけれどね」
……うん、前から思っていたけど、天草の《友達》に対する思いって普通より遥かに重いよね。そんな気がする。
友達って、そんなに特別なモノだった?
もちろん大事ではあるんだけど―――今まで友達を作らなかった、天草だからこその発想なのか?
《当選の発表は、発送をもって代えさせて頂きます》とは言うが、受け取り手である僕には、まだ分かりそうにない。
色が増えて見方が変化した所で、日常は日常のまま、僕は流されていくのだろう。
『……ミノル、どうして?』
誰かが発した言葉は、クラスの騒音に混ざり消えていく。
もちろん誰にも聞かれる事はない。
例え、僕にその言葉が聞こえていたとしても、意味が解らなかっただろう。
誰かの想いは誰かの心へ還る。
誰かを受け入れる、誰かを選ぶという事は―――誰かを拒否する、誰かを選ばないという意味でもある事を、この時の僕は理解出来ていないのだから。
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