起こる事件、そして

「やぁやぁ、来てくれて助かったよ。

今どき古典的な手法を取ったものだから、気付いてもらえないかもしれないと心配だったんだ。

私は案外古臭い人間でね、こればっかりは了承してくれたまえ」


「改めて、私は天草 奏(あまくさ かなで)だ。仲良くしてくれたら嬉しい」


「え、私だったのが意外だって?その前に、私の存在を認識している事が何より光栄だけれど。

まぁ、そう言われても仕方ないとは思うよ?

だって私は、バラエティー豊かな君と同じクラスの中でも一際静かで友達を作る方では無いからね。

窓際で読書を嗜んでる事が殆どだし……そんな女子はお気に召さないかな?

ふふっ、今はそんな事はどうでもいいか」


「おいおい、分かったから私を睨まないでくれ、本題はこれからちゃんと入るからさ。

最初から本題に入っては味気無いと思っただけなんだから、ね?

うん、そう落ち着いて」


「さて、これから私は君について話そうと思う。

君についてだ。

他の誰でもない《君自身》の事を、他人である私が知った口で物申すよ?

大丈夫かな?」


「うん。

では君は自分の事をどう感じてどう思ってる?

素直な意見が聞きたいな」


「別に焦らしている訳でもないし、はぐらかしている訳でもないよ。

本題にはすでに入っているんだ。

不安だろうし怖いだろうけど、答えてくれないと話が続かないんだ、わかるかい?

君の率直な意見を聞かせてくれ」


「うんうん……そうか、ありがとう。

難しい質問だっただろうけど、答えてくれて感謝するよ。

つまり君は自分の事を《小心者》《無個性》《平均一般》と捉えているか。

そうかそうか、なるほどなるほど……うん、了解した。

では、次の質問だ」


「君は周りの人達に自分をどう見せている?」


「ふふっ、困った顔だね。

他人のそういう顔は嫌いじゃないよ、不謹慎だけれどね。

さぁ、答えて貰おうか?

君は周囲にどんな姿を見せ、どんな役を演じているのか」


「何も演じてないって?

おいおい、ここにきて仕様も無い嘘は関心しないな。

自分を誤魔化すなよ、それともそれが君の役なのかい?」


「え、それの何がいけないかって?

人前で良い顔するのは人として当たり前じゃないかって?

それなら嘘吐かないで正々堂々とハッキリ言いなよ。

勘違いしているようだけど、誰も悪いなんて一言も言ってないじゃないか。

周囲に見せる顔や、特徴なんて誰しも腐る程持ってる訳だし。

私だって先程言ったばかりだろ?

《窓際で読書を嗜む無口な女》って。

これだって他者に向けての役作りなんだよ、砕けた言い方をするならば《キャラ》だ」


「だけれど、私とこうして話してみて理解したと思うけど、実際はお喋りさんなんだ。

君が呆気に取られる程のね」


「しかし、私は周囲には無口で通している、

そう演じて見せているんだ。

何故だか解るかな?

その方が私にとって都合が良いからさ。

何故都合良いかは、今は関係無いから割愛させて貰うけどね」


「ああ、私の話に長い尺取って申し訳ないね、今の君はそれどころじゃないだろうし。

でも、軽く言い訳させて貰うと、私の話を挟む事で分かり易くしようっていう心積もりでもあるのは承知して貰いたいかな。

残念ながら私の胸部には、ナニかを挟める程の膨らみは無いみたいだけどね、将来に期待でもしよう」


「はっはー、また私の話になってしまった。

校内でこんなに会話を弾ませた事なんて初めてだったものだから、つい柄にもなくハシャいでしまったみたいだ。すまないね」


「さて、本筋に戻そうか。

私程では無いけれど、君も雑ながらちゃんと役作りをして、生活に勤しんでいるみたいじゃないか。ん?」


「とある某お友達君は、君のことを《誰にでもフレンドリー》と思っているみたいだし、某隣の席の女子は《ツッコミ気質な腕白男子》と捉えている。

その他のいろんな君の知人達が似たような人物像を君に描いている。

良かったね、君の頑張りが実ってるじゃないか。おめでとう」


「ふふっ、皮肉に聞こえたかい?

穿った考えだね、まぁ半分は正解だけれど。

私の思いはどうであれ、君の《君自身が思う君の姿》と、《他者や周囲に見せる姿》の不一致・矛盾点があることが確定した訳だけれど、それについては当たり前田のクラッカーで、誰しも持っている事だ。

今更言うことでもないけどね、私にもあるし君にも誰にでもある」


「…で、ここで本筋の最初に戻る訳なんだけれど、大丈夫かい?

ちゃんと付いて来れてるかな?

私の胸部の話の方が良いかな?

はっはー、そこで困惑されても挨拶に困るが、では、いくよ?

私のお喋りはまだ終わらないから、私の美声に酔いしれる事だね」


真中実真実は君の中にある

その名の通り、御覧の通りの有り様なんだ。

聞かせておくれ、君のこと」




嵐のような邂逅は、人知れず静かに巻き起こる。

この日常の出来事は、まだまだ僕の自分殺しが終わらない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る