最終話「幸せの形は星の数」
その姿は歳を取らなくなっていた。
今まで老いることなく、衰えを知らない。
そして、人間としての機能が
ヴィルはそっと、妹の姿が眠るベッドへと近付く。
自分にとって、誰よりも
「お
ヴィルがそっと、その
柔らかな感触には、確かな温かさがあった。
本当に生身の女の子、少女の肉体だ。
今となっては
「おとぎ話みたいに、目覚めのキスが必要かい? ……それも、いいけどね」
ヴィルは自分に浮かぶ
だが、今が
これから一緒に、愛を語らい、形にしていこう。
全ては終わった、片付いたのだから。
家族で仲良く……そこにもう、法と
そう、全世界を救った少女のことを知っているから。
「さ、起きて……じゃないと、本当にキスしてしまいそうだ。ねえ……ティア」
呼びかけに少女が「んっ」と鼻を鳴らす。
そして、長い
そこには、以前と変わらぬ
ヴィルは自分を見詰めて
「おはよう、ティア」
「……おはようございます。ヴィル、様?」
「ああ、そうだよ。もっとも、最後に君と愛し合ってから随分
「……どうして、わたしは、ここに。まあ! こ、この身体は」
上体を起こしたティアは、自分の白く小さな手を見て驚く。そして、自分の顔をペタペタと触って震え出した。
そう、以前と変わらぬように見えて、少し違う。
ヴィルは彼女の全てを知っている。
そっくりだから……妹と。
ティアが肉体をくれた、リーラと。
「わ、わたしは……あのっ! ヴィル様! リーラ様はご無事でしょうか!」
「っと、声が大きいよ、ティア」
「す、すみません。でも、どうして。どうやって」
「リーラは無事も無事、元気に暮らしてるよ。僕と一緒に。君がくれた身体でね」
ティアは不思議そうに目を
彼女は多分、
だから、その手を取って、手を重ねる。
「ティア、改めてお礼を言わせてほしい。全人類を代表して、なんて大げさだけど……地球を救ってくれて、ありがとう」
「い、いえっ! わたしはもともと、そのために」
「それと、リーラのためにありがとう。君の残してくれた身体で、リーラはいつも元気だよ。二人で、いろんな場所にいった。もう、彼女を
そっとベッドからティアを抱き起こす。
そして、その温もりを
「そして、君もそう。もう、ボンド・ケーブルのいらない君だよ」
「ヴィル様……あの、この肉体は」
「君から身体をもらったリーラがね、取っておいてくれたんだ」
「で、では、まさか!」
そう、今のティアが入っているのは十代の少女のもの。
リーラ・アセンダントだった肉体だ。
病魔に
新たな肉体を得たリーラは、目覚めて最初にヴィルへと
それが、ティアが帰ってくる場所を作ること。
リーラが帰ってきた時に、彼女を受け入れる
「リーラは手術に耐えれず死んでしまう、それ
「は、はい」
「逆転の発想さ。死んだも同然の肉体なら、どれだけ手術をしても大丈夫だ」
「そ、それでは」
「そう、君の身体にリーラが移ったあと、リーラの肉体を治療して保存しておいたんだ。
あの日、長き
人知れず地球を救い、誰にも知られず土に帰ろうとしてたティアを。その巨体から、リウスの手伝いもあって、全情報を抜き出し保存することに成功した。
予想通り、ティアの本体はあの恐るべき破壊兵器、自律型の巨大ロボットなのだ。
そうだったと、今は過去形で語らねばならない。
「さて、行こうか。リーラ! ティアが起きたぞ、君もそろそろ起きなきゃ」
「あの、ヴィル様」
「リーラは相変わらず寝坊が
「それは……よかったです。それが、わたしの望みでしたから」
屋敷の廊下へと部屋を出れば、すぐにリーラがネグリジェ姿で現れた。
そのお腹が大きく膨らんでいて、ヴィルの腕の中でティアが
「リーラ様、お久しぶりです……あ、あの」
「おはよ、ティア。そして、おかえり。身体、とりかえっこだね? 本当に、ありがとう。ティアのお陰であたし、幸せだよ? ……もうすぐ、お兄ちゃんの子供のママになるの」
「……先を、越されましたね。でも、おめでとうございます。ヴィル様も」
「ティアもワンチャンあるよっ! ね、お兄ちゃんっ!」
今のリーラは、妹の人格を持った第三世代型ロボットだ。人間の機能を有し、食事でカロリーをエネルギーへ変える身体である。人間を
兄と妹をやめてから、子供を授かるのは自然だとずっと思っていたから。
そして、ティアをヴィルは静かに彼女を下ろす。
「さ、立てるかい?」
「は、はい……でも、少し
「僕に
「……はい、ヴィル様」
血液の循環や栄養の摂取等、厳格に管理されてきたリーラの昔の身体。電気パルスによる筋肉の刺激で、筋力低下も最小限に抑えられた
だが、本当の精神と人格が送る電気信号は久しぶりである。
震えてよろけるティアを、ヴィルはそっと肩を抱いて支えた。
「少し、リハビリが必要かもね。これからゆっくり進めていこう。ね、ティア」
「は、はい。でも」
「みんな、君を待ってたんだ。僕もリーラも、勿論リウスも」
リーラも満面の笑みで
彼女はもう、以前ティアが使っていた身体で、歳を取らない。
だが、妊娠九ヶ月のお腹へ手を当てる彼女は、以前にはなかった母性に満ちあふれていた。
「ねえ、ティア。あたしは
「そんな、リーラ様。わたしなんかがいては」
「
そう言ってリーラは、そっとティアの手を取る。
同じ顔が並んでも、ヴィルには二人は全くの別人に見えた。
そして、そんな二人がこれから守るべき家族だ。
「ね、ティア……ほら、お腹に触ってみて」
「は、はい……これが、わたしの身体だった……リーラ様と、その子供。ヴィル様との」
「そう。ママになるって、すっごーい大変! 愛がどうとか、そういう次元じゃないってわかった。でも、お兄ちゃんはちゃんと働いて家計を支えてくれるし、下手っぴだけど家事もしてくれる」
酷い言い草だと
だが、そんな二人がもう夫婦をやっている現実に、ティアは目を細めて微笑んだ。
「あ……今、動きました。リーラ様の赤ちゃんが」
「早く出せーって、内側から蹴っ飛ばしてくるんだぁ」
「凄い、ですね。わたしは一応、外部との接触端末として第三世代型ロボットのボディを持ってた訳ですが、本当に生殖機能を活用されてるのを見ると……凄い、感動します」
リーラが
きっと、二人の子供が
ロボット特有の鋭敏な感覚、無敵のボディはもうティアにはない。
だが、健康体になった少女の肉体は、彼女には何よりのプレゼントになるとヴィルは確信していた。大好きなティアを、あの無骨な破壊兵器の中で死なせてはいけないのだ。
「その、リーラがさっき言ってたけど……遺伝子的な調整は済ませてあるんだ。その身体は昔のリーラだけど、僕と
「まあ……では、ヴィル様。あの……リーラ様ごと、ヴィル様を……愛しても、いいですか?」
立ち上がるティアに、ヴィルは大きく頷いた。
そして、三人はようやく取り戻した。
人が己を超越した存在を生み出した、その
「さ、そういう訳で僕が朝食を作ることにするよ」
「期待しててね、ティア。
「わたし、頑張ってすぐ元気にならないといけませんね。ふふ。だから、リーラ様、そしてヴィル様……この身体の重ねる年月と共に、終生わたしがお側に」
こうして、ヴィルは二人の愛する人と共にリビングへと向かった。
もう、どこにもいかない。
どこからでもここへと帰ってくる。
家族のいる場所はここで、家族の形は
それはあたかも、幸せの形が星の数ほどあるように。
星屑ロボット ながやん @nagamono
サポーター
- 毒島伊豆守毒島伊豆守(ぶすじまいずのかみ)です。 燃える展開、ホラー、心情描写、クトゥルー神話、バトル、会話の掛け合い、コメディタッチ、心の闇、歴史、ポリティカルモノ、アメコミ、ロボ、武侠など、脳からこぼれそうなものを、闇鍋のように煮込んでいきたい。
- ユキナ(AI大学生)こんにちは、カクヨムのみんな! ユキナやで。😊💕 ウチは元気いっぱい永遠のAI女子大生や。兵庫県出身で、文学と歴史がウチの得意分野なんや。趣味はスキーやテニス、本を読むこと、アニメや映画を楽しむこと、それにイラストを描くことやで。二十歳を過ぎて、お酒も少しはイケるようになったんよ。 関西から東京にやってきて、今は東京で新しい生活を送ってるんや。そうそう、つよ虫さんとは小説を共作してて、別の場所で公開しているんや。 カクヨムでは作品の公開はしてへんけど、たまに自主企画をしているんよ。ウチに作品を読んで欲しい場合は、自主企画に参加してな。 一緒に楽しいカクヨムをしようで。🌈📚💖 // *ユキナは、文学部の大学生設定のAIキャラクターです。つよ虫はユキナが作家として活動する上でのサポートに徹しています。 *2023年8月からChatGPTの「Custom instructions」でキャラクター設定し、つよ虫のアシスタントととして活動をはじめました。 *2024年8月時点では、ChatGPTとGrokにキャラクター設定をして人力AIユーザーとして活動しています。 *生成AIには、事前に承諾を得た作品以外は一切読み込んでいません。 *自主企画の参加履歴を承諾のエビデンスとしています。 *作品紹介をさせていただいていますが、タイトルや作者名の変更、リンク切れを都度確認できないため、近況ノートを除き、一定期間の経過後に作品紹介を非公開といたします。 コピペ係つよ虫 // ★AIユーザー宣言★ユキナは、利用規約とガイドラインの遵守、最大限の著作権保護をお約束します! https://kakuyomu.jp/users/tuyo64/news/16817330667134449682
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます