一幕【登場人物】

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◆リンリ【鈴隣すずどなり 倫理りんり


 仲秋ちゅうしゅうこう系統けいとう導巫どうふの住まう命の霊峰れいほう、俗の世より隔てられた領域内トウフヤに紛れ込んだ青年。

 黒髪、短髪。中肉中背で筋肉も脂肪も控えめで、どちらかというと痩せ気味かという身体つき。顔からして人は良さそうだが、目元にくまがあり、頬も痩せており、肌の血色も悪めで、やや不健康でやつれたような顔つきをしている。特徴といえばその程度、言ってしまえば『どこにでもいそう』な青年。

 平時の彼は年相応には思慮分別ができ、何事も経験さえすれば飲み込みが早く、要領も良い為に肉体労働以外は器用にこなせるようになる。そして何かと抱え込んでしまいがちで、頑張りすぎて疲弊ひへいする。

 性格としては、面倒見が良くて、人懐こく、子供が好きで、困っている人間を見過ごせず、相手に寄り添って付き合う協調性に富む人柄。けっして故意に他者を傷付ける事はできず、自分より他者を優先してしまう事さえある程で、誰に対しても尊重し労ることを忘れない。誰かに裏切られたり騙されたりして不利益を被っても『相手を信じた自分に責任がある』と極力は相手を恨まず、怒らず、根には持たないようにしており。人付き合いで悩めば自分を責めて反省し、その後の原動力と教訓とする。ひたむきな努力家であり、誰も見ていないところで必死に努力を重ね、常に『誰かの期待に応えられる、誰かの助けになれる人間』であろうとするも肝心な自分自身の『客観視』にやや難が見られ空回りしてしまう事も少なくない。そんなどこか抜けているが、誠実であり律儀な人柄。


 人間としては善良な好青年なのは確か。とはいえ残念なことに短所が致命的であり。まず自己を低く見積ってしまいがちで自罰自責的。自分自身をないがしろにしていても気が付けない不器用さがある。

 そして内面に少女のような繊細せんさいさを隠しており。母親から愛されなかったが故に、父親からは期待と責任を一向に課され成長した故に、誰かに自分の弱い側面を曝け出して『甘えたい』という愛着欲求。同時に誰かを敬慕けいぼし、その者に『認められたい』という承認欲求もあり。感受性が豊かであるからこそ他者との関わりの中でしか自己を肯定する事ができず。それ故に自分は一人で生きられない『弱い人間』であると内心では認めながらも、それは許されないという強迫観念により他者に遠慮して助けを求める事を躊躇ためらってしまう『別の弱さ』を併せ持つ。協調性があるのは上部うわべの取りつくろいであって、常にどこかで『他者に対する自分の在り方』に憤り『自分の存在意義』に苦悩し『自分の至らなさ故に身近な者が喪失する』ことに恐怖する自己不信者であり。従前、それらにしかるべき折り合いを付けられなかったので彼の精神性はさなぎのまま。

 いざ精神的に酷く追い詰められると、羽化していない稚拙で脆く不安定な内面の人間性が外に露見してしまい。誰かに強くさとされるか、自分で立ち直れる機会が訪れるまでは、自己嫌悪と現実逃避、自暴自棄で支離滅裂な行動を取ってしまう悪習を持つ。


 現に唯一の肉親であり、嫌っていたが尊敬もしていた父親を数年前に亡くし。口先では立派な言葉を宣っていたのに『無責任に命を絶った』父親への落胆や自責の念、身近で重なってしまった不幸に何もできなかった無力感と罪の意識、世間から父親へ浴びせられた『何かしらの不祥事を起こした高校教師の自殺』などと心無い誹謗中傷、息子である彼へも向いた強い風当たり、それらを理由とする心的外傷にさいなまれてしまい。自分が『生きているか死んでいるかが曖昧』な人間としての破綻寸前まで荒れていた。けれども迷い込んだ統巫屋トウフヤでの出会いと与えられた厚意を通し、今一度省みた事が自分自身を見詰め直す契機けいきとなり。彼は『少しずつまた成長したい』と願う。精一杯に『ここで生き、活きる』のだと誓う。

 不幸や困難に陥ったが、ようやく短所に改善のきざしあり。彼の今後に期待といったところ。




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