幕間……(二) 【水難の裏側で】
◇◇◇
――とある町で起きた、水難の裏側。
表舞台に出ない、
それは
そうして、
「これで仕舞い、ですわね――」
様々な場面の幕が降り、朝の訪れだ。
「――やれやれ。長い長い夜でしたわ。
けれども、ようやく
ひと段落した
https://kakuyomu.jp/users/1184126/news/16818093079910859929
振り返って、朝焼けを背後にし
彼女は背中の黒い片翼を広げて、視線の先の
惨状。あぁ惨状としか言いようがない……。
「やむを得ない、多くの犠牲を払っての
……それらは、彼女の踏み
必要性を盾に、
十数軒あった
焼け、嵐の雨風で
加えて、所々が炭化した
集落に火を放った。必要だから。理性と人間性を失った住人達を切り刻んだ。必要だから。
彼女達のやった事は、日輪に顔向けができない愚行であろう。しかし誰かが必ずやらなければならぬ役割。それゆえに彼女は今日も堪え忍ぶ。
「『
……救えたものも、あるのですから」
そこに小さな人影が向かって来る。
「あら……?」
それは
隠れていたのを保護された、唯一の生き残りである年端もいかない
「ここはダメよ、いけないっ!」
ハッと彼女は近付き。まるでそのまま心が壊れそうな様子の
「あ……」
彼女を見たとたんに
「……えぇ、それはそうね」
過剰に怯えられてしまうのも仕方はない。
彼女は気にしないと優しげに、
翼で包み。
「あたくし達のこと、どう思いますか?
恐ろしい? 許せない? 憎い? 心の整理には時間が必要で今はただ悲しいだけ、かしら?」
言葉に応えは無い。無くて良い。
全ては彼女の『自己満足』であるのだから。
「けして『ごめんなさい』とは申しません。これが最善策でしたのよ。放っておけば、被害は更に広がったのだから。そして完全に心身を
「えぇ、このごく限られた地域で被害を食い止める為にはね。犠牲を容認するしかなかった。
彼女はひたすらに優しく不器用であった。
犠牲を容認する
自らが汚れ役になっても。たとえ『復讐したい』と思われようと、誰かを生かそうとするほどに。
従者によって抱き上げられて連れられて行く
今回の件、全ての元凶へ。
「……えぇ。
当然にだけれど、貴女も含めてですわよ?」
――貴女と。そう呼ばれた相手が元凶。
それは屍達が囲む、厳重に
――
すでに
かの獣の巨体は、太い黒鎖とそれを固定する
「さてさて。これより首輪を着けた者、あたくしが貴女に盟を与えますわ。よーくお聴きあそばせ? 『守るのです。貴女がこれまで
存在するだけで厄を振り撒く存在だろうと、存在しなければ別の厄がもたらされる面もある、かように
片翼の彼女の
「……あたくしは少し休みますわ。この後は皆さんにお任せしても構わないでしょうか?」
「はぁ……おリンちゃん……ねぇ?
疲れました。貴女の尻尾を揉みたいです」
ここには居ない『誰か』の愛称を呼び、
虚空に向かって手慰み。表情を柔らげる。
「おリンちゃん。そうそう、そういえば貴女は今頃はあの町に居るのですわよね? 過去、半ば巻き込んだあたくしが言うのもなんですが、また妙な形で巻き込まれてなければ良いのだけれど……」
ここには居ないが、
その『誰か』を案じる彼女。
「なにやら、あらら? 町の様子が……?
あれは系統導巫様の御力? いえそれ以外にも」
そこで。事前に方策を伝えていた町に、
彼女は妙なものを感じ取ってしまった。
「……今回も巻き込まれていそうですわね。
一応、これから朝一番で『報告書や今後の対応』を含めた町への書簡を送りましょうか。もしも本当に巻き込まれていた場合の、貴女への説明の
見計らったよう従者の一人が現れ、木箱に入った物品を差し出す。それを受け取り、言葉を継ぐ。
「――あらまぁ、持って来てくれていたの?
でしたらそうね。これも一緒に、おリンちゃんのところにお届けをお願いしようかしら?」
「ということで、あたくしからの
危殆などの事態に際して、普段の貴女は無力ゆえ。
渡しておいた方が良いだろう品もございました」
従者は一礼をし、木箱入りの物品を返されるとそれに封をしてから瞬時に姿を消してしまった。
片翼の彼女は瞳を閉じ、追想を始める。
「……おリンちゃん。ねぇ……?
罪作りな貴女。あたくしは、貴女になんて『出会わなければ良かった』のかしらね? 貴女のことを知らなければ今まで通りに、あたくしは
追想の中で、誤解を重ねてすれ違い、激しくぶつかって、心と身体を傷付けてしまった。その『誰か』である白銀色の狐に投げ掛けられた言葉は、示された意志は、魅せられた心魂は、片翼の彼女の心に突き刺さったままで未だに抜けはしない。
むしろ刺さったそれは時間と共に、選択に際して、必要に駆られる度に、日々堪え忍んでいた心に精神的な激痛をもたらしており。痛みは常に冷静なはずの彼女を惑わし、悩まし、追い詰める。なのに何故だか『この心の痛みは、自らに必要なものなのではないか?』と、この頃は焦がれもしてしまう。
https://kakuyomu.jp/users/1184126/news/16818093079910706431
「怒った貴女に『ぶっ叩かれて』しまい、反省はいたしました。いたしましたとも。でもこれが、あたくしなりの『
…………。
「……だから。どうか、そうね。
あたくしの大切な友よ。貴女のその眩しさが、その輝きがいつまでも損なわれませぬように。進む道は違えど、貴女の旅の無事を願っておりますわよ?」
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