統巫之番―トウフノツガイ―狐愁晴天譚

哀無風(i'm who?)

◇序章【生き、逝き、行く】

序章……(零)  【序開独白】


 ◇◇◇




 ──姿見すがたみの中には、白磁はくじごとき肌の少女。

 人の身ならざる、銀色の端麗たんれいな少女。


 彼女はほおに手を添え、銀髪と琥珀コハクの瞳を揺らす。その神秘的な身体には獣のような容貌ようぼう、狐の耳や尻尾といった特徴を持っており。背中側や腰回りには銀色の毛皮が覆っている──。


 彼女が繊細でしなやかな指を沿わせ桜唇おうしんほころばせてみれば、そこから鋭く尖った犬歯が覗く。八重歯ではなく獣の牙が生えている。半人半獣、人とも獣ともいえぬ曖昧あいまいな姿だ──。


 彼女は温水に浸した布で身体の隅々を拭き上げていき、時間をかけて一頻ひとしきりを綺麗にする。

 湯上がりのような赤みの差した顔で。火照ほてった身体を冷ますように、自らの指で臀部でんぶより伸びる豊かな尾っぽを、銀色の毛皮を、白い玉肌を、女性的な部分をそっとなぞってゆく。そこで端無くも、


 ……深く、溜め息。


 溜め息を吐き。彼女は程よく膨らんだ自分自身の乳房ちぶさをぎこちなく慣れない動作でもって手で寄せ下着に包み込み。そこで気恥ずかしげな声を漏らしてしまい、ハッとした表情を浮かべる。

 己のこの様な姿を『目に納めないでくれ』と言わんばかりに。睫毛まつげを揺らし、その切れ長の眼をうるませ、桜唇を引きむすびからの一瞥いちべつ、鏡面の境より“こちら”を睨んでくるのだ……。


https://kakuyomu.jp/users/1184126/news/16818792440680585605


「これが、今の、俺なんだ……」


 これは、なんたる形容し難き感情か。

 これから何度繰り返そうとも、慣れたりする事はできやしないだろう。変わり果てたおのが姿に目眩がして、同時に焦燥しょうそうやらもいだいてしまう。


「俺はリンリだ。どんなに変わっても」


 ──そうだ、そうだとも。

目をそむけはしない。これはおのが姿だ。

かような身に成り果ても、きると誓った。


 目を閉じれば彼女との出逢であいの記憶。

 つむがれた邂逅かいこう言葉ことのは。約束をつがった。

 己が成り代わった少女のはかなげな笑み。


 これは彼女の全てをゆだねられ、

人ならざる少女になった己の軌譚きたん──。


 雨戸を開いた先の空は、気分を沈ませる曇天。

じきに嵐が来る。晴天は夜の嵐の先だ──。


https://kakuyomu.jp/users/1184126/news/16818792440680538589



 ◇◇◇

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