岡本健, 遠藤英樹/編「メディア・コンテンツ論」

「メディア・コンテンツ論」(岡本健, 遠藤英樹/編)を読む。メディア=媒体、コンテンツ=内容とすると、メディア・コンテンツとは内容の媒体となるものくらいの意味だろうか。しかし本書ではコンテンツの意味が単なる内容だけに留まらなくなってきたとしている。背景にはインターネットの急速な発達によるメディアの進化、コミュニケーションの在り方の変化が表れているからだ。現在の我々は現実空間、情報空間、虚構空間を行き来しつつある虚構内存在(※筒井康隆の造語)となっている。そんな中で本書は主にアニメを中心として、ゾンビから魔法少女までコンテンツの変遷を辿っている。


例えば、戦隊ヒーローの分析では戦隊シリーズの持つフォーマット(不変の要素)、つまり色とりどりの複数のヒーローであること、女性を含むことなどが提示される。その上でアメリカでパワーレンジャーとしてローカライズされる際に番組フォーマットを変えることなく、キャラクターやストーリー、世界観といったナラティブ(可変な要素)でローカライズに対応していることが示される。


推理小説の分析では、「密室」「吹雪の山荘」といったフォルム「型」とコンテンツ(内容)の関係について、推理小説においてはコンテンツのフォルムへの再帰性――光が鏡にあたって自分自身に再び帰ってくるように、ある存在・行動・言葉・行為・意識がそれ自身に再び帰ってきて,ときにそれ自体の根拠を揺るがせてしまうこと(155-156P)――といった現象が見られると指摘している。それはとりもなおさず、近代的なアイデンティティが前近代的な身分・地域から解放されたのと引き替えに、常に「自分は何者であるか?」といった問いかけを繰り返すといった再帰性に帰着していることの現れであるとする。


最終章のコンテンツ・ツーリズム論ではアニメの聖地巡礼といった現象を取り上げ、コンテンツと地域が結ばれることで魅力を発揮する、そしてそれは長い目で見れば21世紀型のツーリズムの在り方として現在の我々に問われているのであるとしている。

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