(再読)東浩紀「ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2」

東浩紀「ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2」(講談社現代新書)を再読する。前著「動物化するポストモダン」の続編。東は欲求を即物的に満たす消費行動を「動物化」と呼んだ。


日本文学は明治期に言文一致体を導入し、写実を旨としたリアリズム/自然主義を導入した。そこでは「現実」との「格闘」が高く評価される。その後、世界は70年代頃からポストモダンと呼ばれる時期に差し掛かった。「大きな物語」が喪失したとされる時代である。世界観や現実観が分散する時代でもある。


一方で80年代から90年代にかけてジュブナイルや少女小説、ゲームのリプレイ小説から派生したライトノベルが勃興した。漫画やアニメの小説化といった体である。ライトノベルの定義は難しいが、キャラクター小説と置き換えることもできる。キャラクターは私小説の「私」と対置できる。現実を写生する文学と異なり、キャラクター小説は虚構を写生する「まんが・アニメ的リアリズム」で描かれていると東は主張する。これは大塚英志の論を受けたものである。


大塚は手塚治虫が傷つくキャラクターを初めて描いたと指摘する。傷つく身体を持つキャラクターを描写することを評価するのである。「まんが・アニメ的リアリズム」である。一方で、死んでも何度でもリセット可能なゲーム的作品を劣位に置いている。これに対し、東はゲーム的作品をその作品が持つメタ構造により高く評価する。


キャラクターはデータベース化され、それを参照することにより新たなキャラクターが生まれるといったサイクルとなっている。キャラクター小説は純文学の立場からは平板であると批判を受けるが、読者はキャラクター小説の持つ日常性と非日常性の交錯を感知し、そこに描写される虚構の屈折した乱反射に惹かれるのであるとする。


キャラクターはそのキャラクター性ゆえに元の物語から離れて別の物語へと入ることが可能である。二次創作などがそうである。手塚のスターシステムもそうである。キャラクターがメタ物語の結節点となっているのである。


後半では幾つかの作品、「All You Need Is Kill」といったライトノベルや「ONE」「ひぐらしのなく頃に」「Air」といったノベルゲームを取り上げ分析する。東はメタ構造を持つ作品を高く評価する傾向にある。それはゲームをプレイするプレイヤーとプレイヤーが操る視点キャラクターとのわずかな視点のズレを逆手にとった構図を取り込んだ作品である。


本書は2007年に刊行されており、ちょうど「涼宮ハルヒの憂鬱」がアニメ化されヒットした時期と重なる。


それから10年以上が経過した。サブカルチャーの動向には詳しくないのでアレだが、ノベルゲーム自体は退潮したかもしれない。ただ、人気ノベルゲームのシナリオライターがライトノベルを書き、アニメの脚本を書くといった越境現象が見られる。一方でネット上の小説投稿サイトが花開いた。そこではテンプレート化された作品が次々と模倣される。また、そのテンプレートの起源も明らかでないといった点が指摘できるだろうか。


……とまとめてみましたが、上手くまとめきれていません。興味のある方は直接当たってみてください。


なお、傷つくキャラクターの身体性ですが、「のらくろ」の日露戦争をモデルとしたエピソードで多くの犬たちが戦死します。のらくろが直接傷ついた場面があったか否かまでは憶えていません。包帯を巻いた姿はあったと思います。

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