第20話「決戦の空は緋に燃えて」
かくして、パラレイドの脅威が立てこもるアヴァロン島へと
巨大な原子力空母そのものを使い、大地を引き裂き森を断ち割って。
大きく乗り上げた
だが……セラフ級パラレイド、メタトロンは敵意を視線で一蹴した。
眼光を輝かせる頭部から放たれたバルカン砲が、
宙を舞うメタトロンを見下ろし、
「れんふぁ、サポートを頼む! いざとなったらぶつけてやる……突っ込むぞ!」
『うんっ! 統矢君、めーいっぱいっ、ブン回しちゃって。わたしも頑張るっ』
統矢が
重力コントロールで浮遊し、音の速さを超えて
その全てを
対空砲火の弾幕を巻き上げるバラク・オバマへと、メタトロンは銃を向ける。
距離も射程も関係ない、強力なビームが放たれようとした、その
「そいつを撃つなっ、レイル・スルールッ!」
重力波による
激突の衝撃に揺れる中、光の
メタトロンは上昇する【樹雷皇】の主砲に突き刺さりながらも、発砲。
そして、統矢の耳に悲痛な声が飛び込んできた。
高速で上昇する【樹雷皇】の砲身の先で、少女が泣くような声を張り上げる。
『統矢っ! どうしてまた……ボクの前に立ちはだかって、また!』
「レイルッ、話は聞いたっ! もう知った! ……こんなことはやめるんだ。ここはお前たちの時代じゃないし、この先にお前たちの未来はない!」
『知ってる! それでも……人類に目覚めが、
「俺だって統矢だ、レイル! 目を覚ますのはっ、お前だあああっ!」
だが、
そして、爆発の中からゆらりとトリコロールの巨体が浮かび上がった。
『統矢っ、知った……わかってくれたんだね! ボクの、ボクたちの戦いを!』
「知ったことかっ! お前たちパラレイドの正体は、わかった……だからって、理解できるものかよ! れんふぁ、全弾発射! 火力で押し切れっ!」
【樹雷皇】が背負う左右のウェポン・コンテナが、一斉に開いて宙へとミサイルを撃ち上げる。垂直上昇から反転して、マイクロミサイルが
だが、レイルはシールドで防御しつつ最低限の回避で爆発の中に消えてゆく。
そして、圧倒的な防御力で煙の尾を引き、高度を下げつつ応射してきた。
統矢はグラビティ・ケイジがビームと
『統矢、地球の危機なんだ! 君も統矢様なんだから、わかる
「それを理由に、過去を……俺たちの時代を荒らしてんじゃないっ! お前が、お前たちがやってることだって、その異星人と同じ侵略だろうがっ!」
『違うっ! これは
「それが、どうしたっ! 戦争したけりゃ、手前ぇだけで勝手に死んでこいっ!」
メタトロンにダメージは感じられない。
そして、背にバーニアの光を背負いつつ、空中を苦もなく泳ぐように
対して統矢の【樹雷皇】は、あまりにも大き過ぎた。重力制御の恩恵があっても、巨体は方向転換するだけでも広大な空間に軌跡を
だが、小回りは効かずとも圧倒的な機動力と加速性、そして火力がある。
統矢は乱射されるビームの中で、その流れに逆らってメタトロンを追う。
大小二機の殺戮兵器は、互いの主張を叫びながら高度を落としていた。
そして……統矢にとってのアドバンテージは、【樹雷皇】だけではなかった。
『オーケェ、ボォォォォォイ! そこは、俺達の距離だっ! 野郎共っ、パーティをおっぱじめるぜ! 全機、突撃!
戦闘可能な全ての
短距離飛行用のロケットブースターを背負い、メタトロンを無数に包囲して取り巻く悪魔達。360度をくまなく囲んで球形の
ありったけの火力が炸裂し、
同時に、
見下ろせば、陸に上がったまま動けないものの、バラク・オバマは健在だ。
『れんふぁ君、グラビティ・ケイジ最大展開でよろしく。今、君がコントロールする10km四方の中で……全ての機体は空を泳ぐ
『了解っ、全機コントロールをリンク……以後、こちらで機動を補佐して修正しますっ』
未来の世界からの贈り物、【シンデレラ】……れんふぁが乗ってきたオーバーテクノロジーの
グラビティ・ケイジの範囲内では、耐重力処置を
統矢の状態を気にしつつ、れんふぁが忙しくキーボードを叩き始めた。
彼女が乗る【樹雷皇】のコクピットは、360度フルスクリーンの電子演算室だ。
液体燃料を燃焼し尽くしたブースターをパージし、友軍機は全てれんふぁの制御下に入った。重力の
統矢の耳にも、レイルの動揺が伝わる。
だが、
その上で……統矢は知っていた。
全力で戦わねば、レイルは倒せない。
そして、残念ながら……彼女を救いたくても、戦いの中でその手段が探せない。それは向こうも同じのようで、互いに
『統矢ぁぁぁぁぁっ! なんで! どうして! わかってくれない……ボクとキミが今、二人だけがっ! DUSTER能力に目覚めし選ばれた戦士! なのに、キミはっ!』
「れんふぁ、グレイ大尉にコントロールの一部を渡せ! こんな高速処理を続けたら、脳が焼き切れちまう。【樹雷皇】は俺に任せろ、制御系のナーヴを全部もらう!」
『統矢、ボクの話を聞いて……世界にたった二人きりの――』
「グラビティ・アンカーを使う! そいつでフン
意識的に統矢は、レイルの悲痛な叫びを遠ざける。
彼女もまた、未来の自分が狂わせた存在だと思うと、胸の奥が
周囲を
あらゆる攻撃に対処し続けるメタトロン。
キーボードを叩き続けるれんふぁの
統矢を取り巻く全てが、スローモーションになってゆく。静止へと近付く中で、知覚は拡大して島全体、海域全体までもが手に取るように理解できた。
生死の狭間で、統矢の中に眠る力がゆっくりと引き出されてゆく。
そして、同じ力を持つレイルと、二人だけの時間が流れ始めた。
「レイル、その機体を停止させて降りろ。統矢様とかじゃなくて、俺の話を聞けっ!」
『統矢はまだ知らないんだ! 異星人は統矢様からも地球人類からも……ボクからも全てを奪った!』
「れんふぁから聞いた……悲惨な戦争の末に、世界は和平を選択した筈だ!
『そう、やっぱり……統矢は知らないんだ。ボクが、連中になにをされたか……ねえ、統矢。DUSTER能力は……死線を超えた絶望の果て、死ぬより苦しい逆境の中から生まれる希望。ボクは……あの日っ、異星人達に! だからっ!』
数で
メタトロンは宙に
レイルの悲鳴を聴きながら、統矢はグラビティ・アンカーを射出した。
【樹雷皇】の下部に二機装備された、巨大な甲殻類の
周囲から歓声が響き渡る。
『やりましたよ、グレイ大尉! あのボウズがついに!』
『俺達の勝ちだ……人類の勝利だ! クソッタレの天使野郎もこれで終わりだ!』
『各機、現状維持だ! 気を抜くな、野郎共……お嬢ちゃんのマーカーに従って編隊を組め。このままメタトロンをバラク・オバマの甲板に下ろすぞ』
戦いは終わったかに見えた。
改めて統矢は、
「レイル、もうよせ。俺とお前、世界に二人きりだけのDUSTER能力者なら……俺達二人以外に、こんな力を持たせちゃいけない。こんな力のために、人類を戦争で
『ううっ、統矢様……ボクは、嫌だ。統矢は、わかってくれない……知らないんだ。ボクがどんな目にあったか』
「知らない、わからないさ。聞いてないからな。でも、お前が知って欲しいなら聞くよ。それでお前の気が済むなら、いくらでも付き合う。友達にだってなれるだろ? 俺達、世界に二人きりなんだからさ」
だが、レイルの返答はない。
少女の声に代わって、メタトロンから耳をつんざく
同時に、
『各機、警戒して下さい! メタトロンに高熱源反応! これは――』
勝利を確信した瞬間、天使は再び
ツインアイに暴力的な赤い光を
内側から単純な暴力で
自らを解放の爆炎で包みながら……ゆっくりとメタトロンが浮かび上がる。
周囲に戦慄の声が走る。
『ひっ! 奴が、メタトロンが!』
『落ち着け、
『う、うああああっ! 奴が! 奴が消えて、ああっ!?』
【樹雷皇】の
乱れるモニターのCG補正された映像を追いつつ、統矢だけがその動きを
メタトロンは、周囲に分身を刻みながら……次々とPMRを撃墜し始めた。
辛うじて追う統矢だけが、友軍の爆発を超えて
どうしてもワンテンポ遅れてしまう中で、統矢は奥歯を噛み締め機体を
そして、冷たく凍った声を統矢は聴いた。
『友達……統矢が、ボクと? 違うよ、違う……友達は、二人きりで愛し合ったりできない! ボクはもう、統矢様の友達なんかじゃない。
「待て、レイル! お前っ――」
『異星人によって
銃と盾とを持った両手を広げて、メタトロンが身体を開く。
統矢は絶句した。
【樹雷皇】のグラビティ・ケイジの中で、自らの重力波を広げる天使。
その姿は再び、無数に分裂して統矢の視界からも消えた。
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