第22話「黙示録の方舟は獄海へ」
レイル・スルールの放った最後の一撃……天を貫くビームの
統矢とレイルが激突する一瞬は、二人を無限の
表面を泡立てながら、
周囲が見守る中、二人の
「レイルッ! もう終わりだ……終わらせてやるっ!」
『統矢あああああっ! ボクと始めてよ! ボク達の、本当の戦いを!』
統矢は愛機に振り上げさせた巨大な
統矢は真っ直ぐに一撃を振り下ろして、原子力空母バラク・オバマの飛行甲板に着地する。首と左腕のないメタトロンが、爆発するライフルを捨てながら振り返った。その手が背にマウントされたビームの剣へと伸びる。
だが、統矢は【グラスヒール】を足元に突き立てた。
「レイル、レイル・スルールッ!」
【グラスヒール】の
現在の人類では製造不可能な、極小サイズの
迷わず統矢は、【氷蓮】が構えた
両腕を交差させて向けた銃口から、ビームの弾丸が
狙い
そのままメタトロンは、右腕を残したままその場に倒れて動かなくなった。
誰もが勝利を確信した瞬間。
宙を舞う友軍達の中から歓声があがる。
『ボォォォォイ! パーフェクトだ。各機、れんふぁお嬢ちゃんのマーカーに従い順次着艦だ。
『やった……やったぞ! 我々海軍だけで、パラレイドを……セラフ級を!』
『うおおおっ! 勝った! 完全勝利だ!』
コクピットの中で統矢は、割れんばかりの
犠牲は出た、
だが、そのことが無駄ではなかったと、統矢は仲間達に証明してみせたのだ。
今はただ、傷付き倒れそうな愛機をそっとメタトロンに寄せる。
もう、【氷蓮】とて立っていられない。崩れ落ちるように片膝を突いて、そのまま統矢はメタトロンの残骸に手を添えた。胴体に収まった中枢部の中で、レイルは泣いていた。
「レイル、終わったぞ……出てこいよ」
『統矢、ボクは……』
「異星人と戦うにしろ、仲直りするにしろ……そのために地球人同士で戦っちゃ、本末転倒だろ? 本当はお前だって、わかっている
だが、統矢の語り掛けを悲痛な叫びが切り裂く。
『統矢は知らないんだ! ボクがなにをされたか!』
「辛いなら聞く、言いたくないなら言葉を待つさ。お前は苦しいかもしれないけど、それはこの時代の俺達地球人だって――」
『その地球人がっ! 異星人に
「レイル!」
『異星人は……
「巡察軍……それが異星人の名か」
身を切るような叫びだった。
同時に、冷静な声が通信で割り込んでくる。
そして統矢は、戦いの終わりを裏切る言葉を聴いた。
『あー、ゴホン。ええと、レイル君、だね? うん、女の子の声だ。話はあとでちゃーんと聞くから、
そして、疑う自分を両目に映る光景が否定する。
『あと、各機現状維持。で、
「総員、退艦? ま、待ってくれ、提督! 俺達の勝ちだ、レイルは……メタトロンはもう動けない! けど、空が? ま、まさか」
『そのまさかだねえ、統矢君。君もあとは刹那ちゃんの指示に従って。で、総員退艦急いでねー、
空に
その光が広がる先で、空間が歪んで天が割れる。
それは、
フェンリル小隊の仲間達が口々に叫ぶ。
『
『落ち着け
『嘘、あれ……次元転移の反応。――ッ! 辰馬っ、桔梗を守って! アタシが前に出るっ、
『いつでもラスカ殿の後にいるッスよぉ! 自分が
空が割れる。
そして、無数の光が降りてくる。
それは、未来の地球人類……百年後の統矢が指揮する
万物の霊長たる人類に初めて現れた、謎の天敵。
真実を知らず、
「くっ、しかもこいつぁ……アイオーン級やアカモート級じゃないっ! これは……セラフ級、なのか? これが、全部? この数のセラフ級だとしたらっ!」
今、光の中から無数の天使が舞い降りる。
翼の代わりにスラスターの光を
セラフ級は皆、必ず単機で出現する人型機動兵器だ。人知を超えた一騎当千の力で、戦略兵器に等しい打撃を人類に与えてきた。大陸を引き裂き島々を海へ消し去って、この星の地軸さえ
それが今、バラク・オバマを包囲するように無数に降り立っていた。
どの機体も外観は同じ、暗い緑色に塗られた18m前後の巨人だ。その手には銃器と思しき武器を構え、腰には
無数のセラフ級は、あっという間に統矢達を包囲した。
そして、レイルの声が涙に
『統矢様……ボクを、また……助けてくれるんだ。ボクにはやっぱり……統矢様しかいないんだ。ううん、違う……ボクは統矢様だけでいいんだ!』
空は通常空間へと戻りつつある中、最後に二機の光を吐き出した。
それは、翼を持つ戦闘機に見える。
巨大なスラスターを背負った
次の瞬間、統矢の前でメタトロンが爆発した。
そして、レイルを乗せた
「レイルッ! 待て、待ってくれ……お前はもう、戦うなっ! もういいんだ、レイル!」
統矢の叫びを吸い込む空で、レイルを乗せたブロック状のコアが光を放った。
そして、次元転移で現れた二機の戦闘機が変形してゆく。片方は上半身になり、片方は下半身へ……そして、レイルを中心に合体するや、ツインアイに
熾天使の王、再臨。
長大なライフルを水平に寝かせて、それを腰の前に浮かべながら両手を添える姿。新たな肉体を得て全てを
「マッチング完了、システム更新……レイル・スルール、メタトロン・スプリーム! まだいけるっ! さあ、我が同志……統矢様の世界を共に信じる者達よ! 試練を……百年前の平和に
攻撃が始まった。
あっという間にバラク・オバマが炎に包まれる。
なんとか立ち上がる【氷蓮】の背後では、ブリッジに志郎だけが残っている。その声が、静かに統矢の耳に浸透してきた。
『統矢君、本当にごめんねえ。すまないと思っている。大人として無力であることを、
吹き荒れる破壊の嵐の中、友軍は包囲の中で必死に戦っていた。抵抗していた。だが、あまりにも戦力差がありすぎる。メタトロンとの戦いでもう、部隊は壊滅寸前まで消耗していたのだ。
そして、統矢は機体を振り返らせて見た。
ブリッジで一人、敬礼して
『それでも、
「いやだっ! あんたっ、自分で言えばいい! 責任を感じるなら、みっともなくても
『年寄りがそれをやっちゃあ、若者達の立つ瀬がないんだよねえ。……僕の指揮の下で死んでいった、
燃え盛る飛行甲板では今、避難のための大型ヘリが飛び立ちつつある。もともと必要最低限の人員で動かしていた艦なので、
そして……目の前に降りてくるレイルのメタトロン・スプリームが迫る。
絶望の中で涙をこらえる統矢は、酷く冷静で澄んだ声に背中を叩かれた。
『統矢君、まだ諦めないで下さい。ただの逆境、ごく普通の絶体絶命ですので。……私に任せて下さい』
恋人の声と共に、統矢は見た。
それは、
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