第19話 超高校級エースの全力投球!


 僕の脳裏をあのものすごい球が駆け抜けた。

 超高校級のあの肩なら、この爆弾をはるか遠くへ投げられる!

「て、天智先輩! 天智せんぱーい!!」

「ひっ!?」

 顔を上げた天智先輩は、駆け寄ってくる僕を見てさっと青ざめた。

「先輩! あの」

「なっ……何だよ!? まだあの女が何か言ってるのか!?」

「え? いえ、和泉さんは何も」

「近づくんじゃない! も、もうホントに勘弁してくれよ!!」

 天智先輩は嫌悪感と不信感を丸出しにした顔で僕を睨んだ。

 しまった……天智先輩は、僕のことを完全にストーカーの手先だと思っている。

 こんな様子じゃ、素直に頼みごとを聞いてくれるとはとても思えない。

 どうする!?

 どうしたら、この爆弾を天智先輩に思いっきりぶん投げてもらえる!?

「な、何黙ってるんだよ……何持ってるんだ?」

 天智先輩がびくびくとこちらを窺ってくるのに何も言えないまま、僕は必死で考えた。

 脳みそがギュンギュン高速回転している。

 こんなに回転したのは、朝、和泉さんのパンツを見た時以来だ。

「……和泉さん?」

 僕はカッと目を見開いた。

「天智先輩!」

「ひっ!?」

 反射的にあとじさる天智先輩に、僕はずいっと踏み込んでその手を握り、爆弾の箱を押し付けた。。

「これ! 和泉さんからのプレゼントです!」

「ひ、ひいっ!?」

「これを私だと思ってください、とのことです! ……先輩の彼女への気持ちを、ぜひこれにぶつけてください!」

 箱を見つめた天智先輩の顔色が赤くなり、さっと青ざめ、そして白くなった。

 全身がぶるぶると震え出す。

「そ……そ、そんなもん……」

 ぐわっ! と川に向かって完璧なフォームで振りかぶった天智先輩は絶叫した。



「捨てるに決まってんだろおおぉぉぉぉおお!!!」



 爆弾は勢いよく天智先輩の手から発射され、対空ミサイルのごとく向かい風を切り裂いてぶっ飛んで行った。

「お、おおおおおっ!!」

「いい加減、二度と現れないでくれ! 俺をそっとしておいてくれぇえええ!!」

 ダッシュで駆け去る天智先輩に構わず、僕と爆弾魔は手すりに飛びついた。

「どこまで飛びました!?」

「暗くて分からんが、とんでもなく遠くまで飛んでったぞ!」

「残り時間は!?」

「あと1分……」

 僕らが暗い川面に目を凝らした時、とんとん、と後ろから誰かが僕の肩を叩いた。

 なんだ? 天智先輩が戻ってきたのか?

 だけど今はそれどころじゃない。

「ちょっと」

「すみません! 今取り込み中です!」

 野太い声に振り向きもせずに僕が怒鳴ったとき、カッ、と川面が光った。

 次の瞬間。




 ドォォオォオオォォォォ―――ンッ!






 爆裂音と共に、川の中央に巨大な水柱が立ち上った。

 橋が大きく揺れ、真横から爆風と水滴が勢い良く降り注ぐ。

 僕は呆然とへたり込んで水しぶきを浴びた。

「間に合った……」

 横で同じく座り込んでいた爆弾魔が呆然と呟いた。

 ギリギリで間に合った安堵と、不思議な達成感が押し寄せる。

 顔を見合わせた僕らは、どちらからともなくぷっと吹き出した。

「ウソだろ。絶対間に合わないと思った」

「ってか、どんな威力のもの作ってるんですか、アンタ」

「だから何度も危ないって言ったろ」

 爆弾魔は大きくため息をついた。

「なんか……どんな施設フッ飛ばしたときより、スカッとしたな」

「え?」

「なあ、聞いてくれるか。オレが、何でプレゼントボマーになったのか」

「え……は、はい」

 その瞳の真剣な色に、僕も自然と背筋がのびる。

「なんか、お前に話したくなったんだ。オレ……」



「お前らァ!!」


 しみじみとした空気を、不意に荒々しい声がぶった切った。

 ぎょっとした瞬間、乱暴に両肩を掴まれて地面に押し倒される。

「ふぎゃっ!?」

「被疑者確保っ!」

「え、ええっ!? 何!?」

 何とか首をねじって見上げると、鬼のような顔の警官が僕に圧し掛かっていた。

 隣では、爆弾魔も同じように取り押さえられている。

「今、川で起こった爆発は何だ!?」

 この声、さっき僕の後ろから声をかけてきた……あれ警官だったのか!?

「自転車で暴走しているから後を追いかけてみたら……一体何のつもりだ!?」

 あ、あの時後ろから追いかけてきてたのか! しまったー!

「そ、その、これには深い事情が……!」

 しどろもどろになった僕を、警官は乱暴に引きずり起こした。

「イテテテッ!」

「プレゼントボマーがどうとか言ってたぞ! まさか、こいつらあの連続爆弾魔か!?」

 こいつ……ら?

「応援呼べ! 他にも仲間がいるかもしれん!」

「とにかく署まで来い!」

「ち、ちょっと待って! 違う! 僕は違うんですぅぅぅぅ……!」

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