幕間:ミッション・インポッシブル

 私立百人高等学校は、街の中心を流れる大きな川沿いの坂道を緩やかに登ったところにあるマンモス校だ。

 その校門前で、オレは大きく深呼吸した。

 今からオレは、プレゼント爆弾を持ち去った女子高生を見つけ、爆弾を回収するため、この学校に潜入するのだ。

 時限爆弾は不幸な事故により起動してしまった。このままでは、タイムリミットが来て爆発してしまう。

 予定外の爆破でいたずらに人的損害を出すのはオレの主義ではない。オレが破壊したいのは、あくまで教育施設であり、ひいては現代の偏った教育制度なのだ。

「タイムリミットまで、あと三時間か……何とかしなければ」

 しかし、あの時は慌てていて、女子高生の顔はいまいち覚えていない。ピンクのパンツのは記憶に焼き付いているが、まさか女子のスカートをいちいち捲るわけにもいかない。

「委員長とか呼ばれていた男の方から探した方が早いかもしれんな……」

 考え込んでいると、不意にわっと賑やかな声と共に校門から学生たちが出てき始めた。

「む、まずい。もう下校時間か……!」

 急がねばターゲットが帰ってしまうか、もしくはプレゼントが開封されて爆弾が発見されてしまう。爆弾は厳重に封をした箱の中に入っているが、開けることは難しくはない。

 重ねて言うが、オレは無差別なテロリストではないのだ。これまでの爆破においても、爆破前に必ず予告を出して避難を促した結果、一度も死傷者は出していない。

 

 校門へと向かいかけた足が、学生たちの姿を見た途端に妙に重く感じ、オレは思わず立ち止まった。

「くそっ……いつまでも過去の幻影に縛られているわけにはいかないというのに」

 陽気に笑いさざめく学生たちを見ると、オレ自身が高校生だったころの記憶が嫌でも思い起こされた。それは古傷のように、ズキズキとオレの心をむしばむ。

 こうなることが分かっていたからこそ、昼の学校など訪れたくはなかったのだが、やむを得ない。

「こんなことでつまづいていられるか……オレは必ず爆弾を回収する!」

 オレは決意も新たにネクタイを直すと、校門へ足を踏み入れた。


 ごく自然に学内へ潜入するため、百人高校の制服を入手するのに思いのほか時間がかかってしまった。が、今のオレはどこからどう見ても百高生の一人。

「完璧な擬態だ……さて、彼は何年かな」

「ちょっと、君!」

 突然、険しい顔の警備員がオレの前に立ちはだかった。ジロジロと見つめてくる。

「……何か?」

 オレは平静を装って微笑んだ。

 何も心配はない。この制服はさる筋から入手した紛れもない本物だ。栽培業者の顔が載った野菜よろしく、使用者の顔写真も同封されていた。

「『何か?』じゃない! 君、うちの生徒じゃないだろう!?」

 馬鹿な!? 

 こんなに早くバレるとは……あの店長、オレをだましたのか!?

「そ、そんなことないです! 酷い!」

「酷いのは君の格好だ! どう見てもうちの生徒じゃない、というか……」

 警備員はワナワナとオレを指さした。


「まず君、女じゃないだろ!?」


 オレは自らの格好を顧みた。ブレザーにネクタイ、短いプリーツスカート。

 男子の制服が手に入らなかったから、女子高生に扮してみたが、やはり無理があったか?

「じ、女子です! 私、女の子です!」

「見え見えの嘘をつくな! ちょっとこっちに来なさい!」

「くそっ!」

 オレは掴まれた腕を振り払い、逃げ出した。


「あっ、待て! こら、変質者―っ!!」

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