第13話 すり替えられた中身!?



 僕は机の上のネックレスと、それを呆然と見つめるお兄さんを交互に見比べた。

 状況についていけない。

「え、えーと? そのネックレスが僕達の手には余るもの……?」

「全然違う!」

 僕の質問に、お兄さんは勢いよく頭を振った。

「……じゃあ、やっぱりプレゼントがお兄さんのものって言うのは、勘違い?」

「そんな馬鹿な! オレは電車の中から、その子の荷物の中にプレゼントが紛れ込んでいるのを見たんだ!」

 お兄さんが頭を抱えた。顔が真っ青になっている。

「一体、どうなってるんだ?」

 

「すり替えられたんだよ」


 ぽんと放り込まれた言葉に、全員きょとんとして、それから一斉に振り返った。

 言葉の主の小町先輩は、いつもの穏やかな微笑みを浮かべて小首をかしげている。

「私もさっき気づいたんだけど……そのプレゼント、最初に和泉さんが持っていたものより明らかに軽くなってた」

「え? ……あ!?」

 僕はふと思い出した。 

「そういえば……天智先輩がぶん投げたプレゼントをキャッチした時、妙に軽いなと思ったんだった」

「え? でも誰がすり替えるんだ? 和泉さん?」

 伊勢の言葉に、和泉さんはきょとんとして手を振った。

「まさか……違います」

「……だよね、すり替える理由なんかないもんね」

 非常に何とも言えない空気が部屋の中に満ちた。


 ていうか、明らかに一人しかいないよな、すり替えた人……。


 ちらりと柿本生徒会長を見ると、真っ青になってあらぬ方を見据え、細かく震えている。

「……あのー、柿本生徒会長、プレ」

「俺じゃない! 証拠はあるのか!? 動機は!?」

 

 うわー、この人絶対犯罪とかできないタイプだ。

 

 あまりにあからさますぎて、逆に何と言えばいいのか分からない。

 更に気まずくなった空気の中、和泉さんがふと動いた。

 机の上のネックレスをしげしげと眺め、手に取る。

「これ……やっぱり!」

「え? 和泉さん、このネックレスに何か心当たりでも?」

 僕の問いに、和泉さんは頷いた。

「これ、この前ひーくんと二人で映画に行って、その後雑貨屋さんに寄ったときに私がすっごく気に入ったネックレス……一点ものだったんだけど、ちょっと高かったから買えなくて」

「え? 二人で映画って、デート?」

 すかさず突っ込む伊勢クオリティ。

 和泉さんはあっさりと首を横に振った。

「やだ、デートじゃないよ。ひーくんが、私が見たがってた映画のチケット二枚あるから行こうって誘ってくれたから、二人でランチ食べて、映画を見て、ショッピングしてカラオケに行って、お茶しただけ」

「思いっきりデートじゃん! それデートじゃなかったら会長可哀そうだよ! 和泉さん!」

「ちょっと! 伊勢くんやめなさい! 面白いから!」

 小町先輩が手で口元を隠しながら言う。

「こんな素敵なネックレスつけて、恋人とデートしてみたいな、って私が言ったら、ひーくんが『いつかお前のことを好きな男が、これを贈ってくれるかもな』なんて言ってくれて……」


 うわー。


「会長、そりゃないっすよ……」

 さすがの伊勢も生暖かい目で生徒会長を見つめた。

「なっ、何だ!? そんな目で俺を見るな!」

「いや、いいから。会長以外の全員がもう分かってっから」

「何のことだ! 俺は絶対に認めないからな!」

 いきり立つ生徒会長をしげしげと見つめていた和泉さんが、ハッとした顔になった。


「まさか……ひーくんが、プレゼントをすり替えた犯人なの?」


 まさかも何も、ずっとその話をしていたのだが。

「そんなわけないよね? ひーくんが、まさかそんなことするなんて……」

「ぐっ……」

 まともに顔色を変えて言葉に詰まる生徒会長に、和泉さんは両手で口を押えた。

「ひーくん、ここで二人きりで待ってた時、手掛かりを探すために指紋とってくるって、プレゼントを持って出て行ったよね? まさか、あの時……」


 言い訳してプレゼントを持ち出すにしても、もう少しうまくやれなかったのだろうか。


「し、しのぶ……俺は……」

「ひーくん、何で……酷いよ……」

 和泉さんの目に涙が盛り上がる。

 何だこの展開……何とも言えない居心地の悪さ。

 お兄さんも口を挟むタイミングを見失って呆然としてるし……。

「え、えーと……とりあえず、本物の行方は」

 とにかく現状を何とかしようと、僕が口を開いた時。


「……あんなもののために、泣くな!」


 いきなり顔を上げた生徒会長が、和泉さんを引き寄せて熱烈に抱きしめた。



「しのぶ! 俺、お前のことが……好きだ!」


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