第10話 変質者リターンズ


「うばふっ!!」


 後鳥羽先輩にぶん投げられた僕は、運よく植え込みに落下した。

 若干衝撃は和らいだものの、視界がグラグラと回っている。

「い、いかん……プレゼントを取り返さないと!」

 何とか身体を起こした時、ものすごい勢いでぶっ飛んできた割烹着姿の人が、隣の地面に激突した。

 

 ドグシャアっ!!


「ひっ!?」

「和泉しゃんどころか、ババアもどきからのプレゼントか! こがぁなものいらん!!」

 続いて勢いよくプレゼントが飛んできて、僕の脳天にガンッ!とぶち当たった。

「アイテッ!」

「ワレら、いつまで寝くさっとるんじゃ! ちゃっちゃと行くで!」

 後鳥羽先輩は折り重なって倒れている不良どもを蹴っ飛ばしながらドスドスと歩き去っていった。

「う、うすっ……」

 ボロボロになった不良達が後鳥羽先輩について去っていく後姿には、哀愁が漂っている。

 僕が命の大切さを嚙みしめていると、入れ替わるように警備員のおじさんが走ってきた。

「あっ、こんなところにいた! ったく……」

 僕の隣で伸びていた割烹着姿の人を引きずり起こす。

「あっ、その人!?」

 よく見ると、その割烹着姿の人は先ほどの変質者だった。

「いや~、こいつ、隙をついて逃げ出してしまってね。てっきり外に出て行ったかと思ったら、まだ校内をうろついてたんだな」

「……そうなんですか」

 引きずられていく変質者を見送っていると、すっと目の前に手が差し伸べられた。

「蝉丸君、大丈夫?」

 いつの間にか戻ってきていた小町先輩が、屈みこんで僕を心配そうに覗き込んでいる。

「あ! ありがとうございます!!」


 小町先輩の手が握れるなんて……植え込みに刺さってよかった! 


 ドキドキしながら伸ばかけた僕の手をすり抜け、小町先輩はプレゼントを拾い上げた。

「あ、あれ? そっち?」

「後鳥羽先輩からちゃんとプレゼントを取り戻すなんて、さすが蝉丸君だね」

「あ、ええ……ハハハ」

 空を切った僕の手を、伊勢がひょいと掴んで引っ張った。

「大丈夫か? いや~、パネぇな番長。ワイヤーアクションみたいに空飛んでたぞ」

「伊勢……お前じゃない」

「へ?」

「いや、何でもない。……それより、僕はもう金輪際、伊勢の言うことは信じないからな」

 僕のジトッとした視線を受け流し、伊勢は能天気な笑顔を浮かべた。

「いいじゃん、結果オーライだろ」

「よくない! マジで死ぬかと思ったぞ! 小町先輩もコイツに何か言ってやってくださいよ」

 振り返ると、小町先輩は手の中のプレゼントを眺めて小首をかしげていた。

「……うーん」 

「小町先輩?」

 小町先輩はいつもの穏やかな微笑みを浮かべたまま、振り返ってのんびりと言った。

「あ、ごめんね。ちょっと気になって……」

「え!? プレゼント、どこか汚れたり破れたりしちゃってますか?」

「ううん」

 小町先輩は頬に指をあてて少し考えると、小首を傾げた。

 何か考えているようだが、超絶可愛い。

「とりあえず、委員会室に戻ろうか」

「は、はい!」

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