エピローグ 雑用委員会の日々


「……酷い目に遭った」

 次の日。

 僕は委員会室でぐったりと机にうつぶせていた。

「いや~、お疲れ蝉丸! 連続爆弾魔って肩書だと、ムショでも一目置かれたんじゃねえの?」

 そんな僕の肩を小突いて、伊勢が呑気に話しかけてくる。

「ムショなんか行ってない。連れてかれたのは取調室だし、爆弾魔のお兄さんが証言してくれたからすぐ疑いは解けたっての」

 僕はじろりと伊勢を睨んだ。

「それより、今日学校に来たらとんでもない噂が立ってたんだけど」

「へえ、どんなの?」

「僕に女装癖のある男の恋人がいるって」

「あー」

 ニヤニヤ笑う伊勢を横目に、僕は頭を抱えた。

 冗談じゃない。小町先輩の耳に万が一そんな噂が届いてしまったら、僕はこれからどう小町先輩にアプローチしていけばいいんだ?

「どうか小町先輩の耳にだけは入っていませんように……」

 僕が天に祈った瞬間、ドアが開いて小町先輩が入ってきた。

「あ、蝉丸君」

「お、お疲れ様です小町先輩!」

 勢いよく立ち上がった僕を見て、小町先輩は軽く首を傾げた。

「蝉丸君が校内に忍び込んだ女装したオカマに惚れ込んで、橋を二人乗りで渡るジンクスを実行し、駅前でプレゼントを渡して告白したんだけど、フラれて川に爆弾を抱いて飛び込もうとした、って噂になってるよ」

「なああああっ!?」

 パワーアップしてる!

「こっ、小町先輩! 誤解ですから! 僕にはちゃんと好きな人が」

「蝉丸君」

 小町先輩はニコッと微笑んだ。

「昨日は本当にお疲れ様」

「あ……は、はい」

「大変だったね。でも、蝉丸君が何とかしてくれるって分かってたよ」

「……こ、小町先輩!」

思いがけない言葉に固まる僕に、小町先輩は微笑んだ。

「どんな事件が起こっても、蝉丸君がいればきっと大丈夫だね」

 これは夢か? 

 小町先輩が僕に微笑みかけてくれている!

 あまつさえ、この僕を頼りにしてくれている!?

 そういえば吊り橋効果という言葉を聞いたことがある。

 ピンチは男女の仲を劇的に縮めるというが……まさか、その現象が今僕にも降りかかったというのだろうか!?

 ハリウッド映画でも、爆破シーンのあとはたいてい男女が結ばれると言うし、間違いなくフラグがたったに違いない!

「こ、小町先輩! 何でも僕にお任せください!」

「わあ、頼りになるねえ」

「頼りになりますか! わは、わは、わははははは!」

「蝉丸……お前、ホント乗せられやすいな」

 呆れたように伊勢が言った時、ドアが開いて男子生徒がおすおずと覗き込んできた。

「あの、ここ学生生活向上委員会ですよね。ちょっと相談が……」

「あら、どうぞ入って。委員長、さっそく仕事みたいよ」

 小町先輩がニコニコと僕を振り返る。

 僕は元気よく答えた。

「はい! 何でも言ってください! 僕が全部、何とかしてみせます!」


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蝉丸くんが何とかしてくれる! 山吹 @suzuna_ringo

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