第3話 彼の名は人志
「重ね重ね、ホントにごめんなさい……」
ピンクパンツの子は、
「い、いや……僕が悪かったんだし、気にしないで」
僕は曖昧に笑った。頬には季節外れのもみじが映えている。
「パニックになっちゃうと、体が動いちゃって……朝もホントにすみませんでした」
和泉さんは深々と下げていた顔を上げると、申し訳なさそうに僕を見た。
小柄で目が大きい和泉さんは、小町先輩とは別ベクトルでかなりレベルの高い可愛さだ。
「ホント、全然気にしないで、ハハハ」
「女子の下着の色を叫ぶような変態は殴られて当然だ。セクハラで告発してもいいんだぞ」
眉間に深いしわを刻んで僕らの様子を見守っていた生徒会長は、メガネを押し上げた。
「ひっ……す、すみません」
「もう、ひーくんやめてよ!私が悪かったんだから」
和泉さんが頬を膨らませる。
「え?ひーくん?」
そういうワードには誰よりも早く反応する伊勢。
「……学校でひーくんと呼ぶのはやめろ、しのぶ」
生徒会長が顔を背けて言うと、和泉さんはハッとしたように口を押えた。
「あ、ごめんねひー……柿本先輩」
何このラブコメみたいなやり取り。
生徒会長の顔が怖すぎて、ものすごい違和感。
「ああ、柿本人志だからひーくんか! 和泉さん、いつもひー君って呼んでるの?」
こういう時、躊躇なく追撃するのが伊勢という男だ。
「うん、ひー……柿本先輩は、家がお隣なの。小さい頃からの幼馴染みなんだ」
「ああ、柿本君とは『ただの』幼馴染なんだね」
穏やかな微笑みを浮かべた小町先輩が、台詞の一部を強調しつつ和泉さんに相槌を打つ。
「はい! いつも助けてくれる、頼れるお兄ちゃんみたいな存在で」
「そうなんだ。いいね、幼馴染みって。ねえ、柿本君」
小町先輩の言葉に、柿本生徒会長の目が泳ぎまくった。
「……お、おう……」
しんと静まり返る委員会室。
あれ?これ、生徒会長的にはただの幼馴染では辛いパターンのやつ?
「しのぶ!余計な話はいい!早く依頼を話せ!」
声を出さずに笑う小町先輩を睨みつけて、柿本生徒会長は咳払いした。
「あっ、そうだね! 実は、これ……」
和泉さんがトートバッグから取り出したのは、ピンクのハート模様の包装紙でラッピングされた、お弁当くらいの大きさの箱だった。
「今日、私の誕生日なんです。それで……これが知らないうちにカバンに入ってて。贈り主の名前がどこにも書いてないんです」
「へえ、素敵ね。和泉さんを思う、恥ずかしがり屋の誰かからの贈り物かな?」
小町先輩が美しい微笑みを浮かべたまま、柿本生徒会長へ視線を投げると、生徒会長は腐さらに不機嫌な顔つきで小刻みに首を横に振った。
そんな無言の攻防には全く気が付かず、和泉さんはうっとりとプレゼントを見つめた。
「知らないうちにプレゼントをくれるなんて、ロマンチックですよね」
「そうかな? ストーカーっぽくて怖いけど……」
僕の言葉を和泉さんは黙殺した。
「だから、このプレゼントを誰が私にくれたのか、調べて欲しいんです!!」
「……ええ?」
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