第17話 嬉し恥ずかし二人乗り
学校から坂道を下って行った先にある、川にかかる大橋を自転車で二人乗りして渡ると恋人同士になれる、というジンクスが百高にはある。
徒歩通学の僕には関係ないと思っていたが、まさか女装した爆弾魔を乗せて橋を疾走する羽目になるとは思わなかった。
「くっそおおおおおっ、どうせなら小町先輩と渡りたかった……!」
「おい!」
僕の肩にしがみついている爆弾魔が、僕の肩を叩いた。
「何ですか!? この橋渡ったらすぐ駅ですから!」
「じゃなくて! お前、一年だよな? なんでお前が委員長なんだ?」
「え?」
いきなりの質問に気を取られた拍子に、バランスを崩して自転車が大きく揺れた。
「うわわわわっ!」
広い川を渡って吹き付けてくる風はかなり強く、気を抜くとハンドルが持って行かれそうになる。
「ちょっ……それ、今聞くことですか!?」
「すまん、万が一爆発に巻き込まれたら聞けないと思って、今のうちに」
サラッと不吉なことを言わないで欲しい。
「前委員長からの指名がありまして! 毎年、委員長には一年が指名されるのが伝統なんです!」
「それって、一年生にめんどくさい役割を押し付けてるだけなんじゃないのか!? さっきは「雑用委員」とか呼ばれてたじゃないか!」
「まあ、大体活動内容は校内の雑用なので!」
「爆弾の解除は雑用じゃないぞ! 何でそこまでする!?」
「何でって……」
「朝からオレをかばって殴られたり、野球部にボールぶつけられたり不良にぶん投げられたり、挙句の果てに爆弾処理に行かされて!」
「何で知ってるんですか!?」
「爆弾追っかけてたら目に入ったんだよ!」
爆弾魔はもどかしそうに叫んだ。
「人がいいにもほどがあるぞ!? 自分ばっかり損してると思わないのか!?」
僕の頭の中を今日のハイライトが流れた。
野球対決で僕を応援する小町先輩。
ボールが当たった僕の背を優しくさする小町先輩。
後鳥羽先輩にぶん投げられた僕を心配そうに見つめる小町先輩。
「蝉丸君……よろしくね!」
へとへとだった足に、ぐんと力がみなぎるのを感じた。
「全然損してないです! むしろ二人の距離が縮まった日というか!」
「はあ!?」
「あ、いえ……つまりですね! 僕が頑張って誰かが笑顔になるなら、全然損じゃないってことっす!」
誰かっていうか、主に小町先輩だけど。
「……」
爆弾魔は黙り込んだ。
少し格好つけたことを言ってしまったが、外してしまったらしい。
気まずさを抱えつつ、僕は駅前のロータリーへと大きくハンドルを切った。
ロータリーに突入した僕は、ベンチの前で自転車を急停止させた。
ベンチに腰掛けて何かをいじっていた男子学生が顔を上げる。
「あ、委員長」
「西行君!? 伊勢から話聞いてる!?」
「ああ。この時計のオブジェ、君のだって?」
西行君が差し出したのは、ごちゃごちゃとした線がつながった黒い金属製の箱だった。中央にデジタル式の時計が埋め込まれており、刻一刻と残り時間を減らしている。
見た目からして完全に怪しい。これを欲しがる西行君のセンス、僕には理解できない。
「あ、ありがとう!」
「いい趣味だよね、君とは話が合いそうだな。じゃ、僕は塾があるから」
悪いけど、絶対話が合わないと思う。
改札へ去っていく西行君を尻目に、僕は箱を爆弾魔へ差し出した。
「これですよね!?」
「ああ! あとは後ろの配線を切っちまえばOKだ!」
何とかギリギリで間に合ったようだ。
ホッとして、僕はベンチに座り込んだ。
途端に全身に疲れが蘇ってくる。
「ああ……あの自転車の持ち主の人、どうなったかなあ」
「……野郎」
箱を裏返していた爆弾魔がうめき声を上げた。
「……え? ど、どうかしました?」
「あいつ、下手にいじろうとしやがったな!? 蓋を止めてるネジの頭が完全につぶれてる!」
僕は口を開けた。
「……え?」
「蓋が開かなきゃ中の操作が出来ない」
「そ、それは、まさか」
爆弾魔の顔も青ざめている。
「……起爆解除できない!」
「えっ……えええええええええええ!!?」
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