第6話 それ純愛じゃなくてストー……



「……つまり、天智先輩は和泉さんのことを好きでもなんでもない、と」


 僕の言葉に、天智先輩は小刻みに頷いた。先ほどからずっと、マウンドに正座したままだ。

 和泉さんは信じられないとばかりに両手を握り合わせてた。

「そんな……! じゃあ、あの時感じた衝撃は!?」

「練習中にそれたボールが、彼女の脳天に当たったんだ。倒れたから慌てて駆け寄って、話しかけて……意識ははっきりしてたから、家まで送り届けた」

 青い顔の天智先輩は和泉さんを窺いながら、ボソボソと続けた。

「そうしたら、次の日から……気が付くと、いつも彼女が視界の隅にいるようになって。話しかけてくるわけじゃないんだけど、物陰からじーっとこっちを見てるんだ」

 伊勢がピュ~っと口笛を吹いた。

「こんな可愛い子に追いかけまわされるなんて、さすがエース!」

「伊勢……お前この状況でよくそんな合いの手入れられるな……」

 天智先輩の恐怖におびえた顔を見る限り、全然ラッキーとは思っていないようだ。

「学校内ならまだわかるけど、よく行く喫茶店やゲーセン、スポーツ用品店にも必ずいるし……自宅の窓から何気なく外を見たら電柱の影に立ってるし」

 和泉さんはポッと頬を赤らめてもじもじした。

「やだ、先輩……気が付いてたんですね!」


 やだじゃないよ! 天智先輩の方がずっと嫌だろうよ!?


 僕はため息をついた。

「とにかく、プレゼントの贈り主は絶対に天智先輩じゃないってことが分かりましたね」

「えっ!? そんな……まさか!?」

「今の会話をちゃんと受け入れて和泉さん!?」

 ショックを受けた様子の和泉さんは、震える手でプレゼントの包みを取り出した。

「天智先輩……本当はこれ、見覚えありますよね? 違いますか?」

「し……知らない!」

「そんな! 恥ずかしがらないで! よく見てください、ホラ!」

 グイグイ押し付けられたプレゼントを、天智先輩は強引にもぎ取り、振りかぶった。

「知らないって言ってるだろ! 勘弁してくれよ!」

「あっ!?」

「とにかく、俺に関わらないでくれーっ!!」


ブンッ!


 天智先輩は見事なフォームから、渾身の力でプレゼントをあらぬ方向へ放り投げた。


「ああっ……!」

 和泉さんが悲痛な悲鳴を上げた時、僕は咄嗟にダッシュしていた。


 誰からのものかは分からないし、中身が何なのかも分からない怪しいプレゼント。

 でも、あれは誰かが和泉さんへ贈ったものだ。

 それがみすみす地面に叩きつけられるのは、見過ごせなかった。


 高々と空に放物線を描くプレゼントを見上げ、やみくもに走る。

「くそっ……間に合わないっ……!」

 いちかばちか、落ちてくるプレゼントへ向かって僕は大きくジャンプして手を伸ばした。


「ええええいっ!!」

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