第7話 襲撃!謎の2人組?!


「いてて……」

 僕は身を起こした。

 間一髪、プレゼントは何とかキャッチすることが出来た。

 ほっとして、プレゼントを抱えなおした時、僕はふと違和感を覚えた。

「ん? このプレゼント、こんなに軽かったっけ?」

 さっき持ってみた時にはずっしりと重かったはずなのに、今は妙に軽い気がする。

「気のせいかな……? 生徒会長、あんなに開けるなって言ってたし」

「蝉丸、大丈夫か!?」

 駆けつけてきた伊勢が、きょとんとして僕の下を指さした。

「……誰を敷いてんの、お前?」

「え? 敷いてるって……」

 伊勢の指の先をたどって視線を動かした僕は、慌てて飛び退った。

 道理で全然痛くないはずだ。

 たまたま落下地点にいたらしい生徒が、僕の下敷きになって倒れていた。

「う、うわっ!?」

 キャッチすることに夢中になりすぎて、落下地点に誰かいることに気付いてなかった!

 しかも制服からして女子!

 女子の上にのし掛かるなんて、白昼堂々僕はなんて真似をしてしまったんだ!?

「ち、違うんです、ほんと事故で、不可抗力で、その、ごめんなさい!」

 慌てて覗き込んだが、下敷きになった女子は完全に気絶しているらしく、ピクリとも動かない。

「うわあ、ヤバい! 僕は女子になんてことを! もう責任とって結婚するしかないのか!? 小町先輩、ごめんなさい!」

「落ち着けよ、蝉丸」

脇に突っ立ってこちらを眺めていた伊勢は、うろたえまくっている僕の肩を叩いた。

「よく見ろ。それ、女子じゃねえぞ」

「は?」

 僕は改めて気絶している女子を見下ろした。


 うつぶせに倒れている子の着ている制服は、間違いなくうちのものだ。スカートがめくれ、朝の和泉さんのごとくパンツが見えて……。


「……あれ? パンツじゃなくてブリーフ?」」

「つか、すね毛メチャ生えてんだけど。これ明らかにオッサンじゃね?」


 僕と伊勢が顔を見合わせていると、向こうから警備員のおじさんが走ってきた。

「あっ、こんなところにいたのか!」

 警備員のおじさんは汗を拭きながら、気絶している女子もどきを見下ろした。

「警備員さん、この人は……?」

「さっき校内に侵入した変質者だよ。委員長が捕まえたのかい? お手柄だね!」

 警備員のおじさんは笑顔で僕の肩を叩くと、気絶した変質者をずるずると引きずって行った。

 僕と伊勢が複雑な顔でそれを見送っていると、追いついて来た小町先輩が花のような笑顔を浮かべた。

「すごい、蝉丸君! さすが委員長だね」

「い、いやあ、それほどでも……えへへへへ」

 よし! よく分からないうちに小町先輩の好感度を稼いだ! 

 ありがとう、変質者のおっさん!

 僕が小町先輩の笑顔に蕩けていると、続いて和泉さんと柿本生徒会長がやってくる。

「プレゼントを投げるなんて……私、天智先輩のこと見損ないました!」

悲しげな表情を浮かべる和泉さんの肩を、すかさず生徒会長が優しく抱いた。

「しのぶ、そんな顔するな。天智はお前が思うほど優しい人間じゃない。お前は純粋すぎるんだ」

「そうだね、ひーくん……私、間違ってた。あの人は運命の人じゃなかったよ」

「もう天智に付きまとう……じゃなくて、天智を見つめる必要もないな?」

「やだ! もう視界にも入れたくないよ!」 

 生徒会長は巧妙な誘導で、さり気なく和泉さんのストーカー行為を終了させた。

 さすがの話術だが、いつまでも和泉さんの肩を抱き続けているのはセクハラではないのだろうか。


「しかし見ごたえのある対決だったぜ! 正直、蝉丸が手も足も出ずに終わると思ってたけど、さすが委員長だな」

「お前、そんな気持ちで対決セッティングしてたのかよ……」

「いやいや、もちろん心から応援してたとも。しかし、プレゼントの贈り主って誰なんだろうな」

 伊勢はしれっと僕の手の中のプレゼントを見た。一応、目的は覚えていたらしい。

「うーん。結局、天智先輩じゃないみたいだし……あ、和泉さん、プレゼントは無事だよ」

 僕がプレゼントを和泉さんに向かって差し出した時。


 ババッ!


 いきなり、僕と和泉さんの間に脇から黒い影が飛び込んできた。


「よっしゃあ!」

「いただきじゃあ!」

「えっ!?」


 ぎょっとした瞬間、プレゼントが強引にかっさらわれる。


「ひゃっはあー! 和泉しゃんのプレゼントはもろうたぞ!」

「さっそくアニキに届けるんじゃ!!」


 プレゼントを抱え、あっという間に駆け去っていくのは二人組の男子だった。

 二人ともリーゼントに短ラン、ぶかぶかのズボンという、『ザ・不良』のいでたちだ。

「な、何だ、あいつら!?」

 唖然とする僕の横で、和泉さんが見る見るうちに青ざめた。

「やだ! きっとあの人の手先よ……!」

「ああ、あの格好……間違いないな」

「え? 今の奴らに心当たりあるの!?」

 震える和泉さんの肩を優しく撫でながら、柿本生徒会長が重々しく頷く。

「実は少し前から、しのぶに付きまとっている奴がいてな……心配するなしのぶ、プレゼントは必ず、奴から委員長が取り返すから」


 ちょっと!? 何勝手に言ってんの!?


「ということで委員長。彼のところに行ってきて、プレゼントを返してもらってこい」

「彼、って……だ、誰ですか?」

 僕は恐る恐る尋ねた。百高で不良……すごく嫌な予感しかしない。



「しのぶに付きまとっているのは、三年の後鳥羽ごとば先輩だ」


 僕はフリーズした。


「後鳥羽先輩……!? って、百高の『番長』……!?」

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