第18話 起爆解除不可能!?


 雑踏の中、僕と爆弾魔は呆然と立ち尽くした。

「どっ……ど、どうしましょう!?」

「どうしようって、ど……どうしよう」

 爆弾魔は爆弾をじっと見つめると、そっとベンチに置いた。

 

「よし、逃げよう」

 

「いやいやいやダメでしょ!?」

「だ、だよな!? ジョークジョーク!」

 割と本気っぽい雰囲気だったが……。

「緊急停止ボタンとかないんですか!? リセットスイッチ! 爪楊枝で押す奴!」

「自家製爆弾にそんなものない!」

「安全対策しといてくださいよ!」

「だから遠隔スイッチで操作できるようにしておいたんだよ!」

「遠隔スイッチ!? それ持ってないんですか!?」

「今朝壊れたんだよ!!」

 爆弾魔は辺りをキョロキョロ見回し始めた。

「ちょっと、今度はどこに置き捨てる気ですか!?」

「違う! 少しでも人気のないところに持って行くしかないだろ!?」

「人気のないところなんて、ここは駅前ですよ!? あと5分でそんな……」

 僕と爆弾魔は見つめ合い、同時に叫んだ。




 「川!!」




 慌てて自転車にまたがり、僕は叫んだ。

「早く乗って下さい!」

「お前までついてこなくても……」

「ここまで来たら乗り掛かった舟です! 早く!」

 爆弾魔を乗せて、僕は力いっぱいペダルを踏んだ。

 ロータリーを抜けて、赤信号を無視して道路を突っ切り、けたたましいクラクションを背にかっ飛ばす。

「あっ、こら! そこの自転車、危険運転するな!」

「すみません!」

 交番前に立っていたお巡りさんが目を剥いて叫んできたが、振り返る余裕はない。

「あとどれくらいですか!?」

「5分!」

 辺りはもう薄暗い。爆走する僕らに驚いて足を止める人の間をすり抜け、僕はひたすら橋を目指した。

 角を曲がると、広い川が見えてくる。

 橋の中央で自転車を止め、僕らは転がるように降りた。

 とたんに強い風が吹き付けてくる。

 爆弾魔は手すりの間から川を見下ろして呻いた。

「クソッ、風が強い上に水面までかなり距離がある! なるべく遠くへ投げないと、下手したら橋に当たるぞ!」

「お兄さん、肩強いですか!?」

「オレは頭脳派だってさっきも言っただろ!? 運動なんてここ何年もまともにやってないよ!」

 爆弾魔は、爆弾を僕へ押し付けてきた。

「頼む! お前が投げてくれ!」

「僕が!?」

 爆弾は片手で持てるほどの大きさだが、ずっしりと重い。1kgくらいだろうか。

 これを、なるべく遠くへ?

「って、そんな遠投僕にも無理です! この前の体力テストでもハンドボール投げ、女子以下だったんですよ!?」

「20mくらいは投げられるだろ!?」

「無風状態で12mでしたけど!? トラウマなんでつつくのやめてもらえますか!?」

 時計を見た爆弾魔が悲鳴のような声を上げた。

「あと3分!」

 僕は手の中の爆弾を見下ろした。


 もう別の場所に移動する時間はない。

 ここでどうにかしないと、このままだと橋の上で爆発だ。

 いちかばちか投げるか?

 それで失敗したら、やっぱり投げた僕のせいになるの?

 橋の弁償っていくらかかるんだ? 何十万? いや何百万か?

 いやいやそれより、そんなことになったら小町先輩はどう思うだろう。

 きっと小町先輩は今この瞬間も、僕のことを信じて応援してくれているに違いない。

 そういえば今日、野球対決の時に小町先輩が僕のことを応援してくれたなあ……。



「……じゃあ、またな」

「ああ」

 ふと、聞き覚えのある声が耳に入り、僕はハッと我に返った。

 橋の前でまさに友達と別れた男子学生が一人、こちらへ向かって歩いてくる。

 スポーツバッグを背負って歩いてくる、その姿は……。


「……天智先輩!?」

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