11:フレンド登録
「キャー!ナオトさんじゃないですか!」
スカートがめくれるのも構わず、一人のウィザードが走ってくる。ちなみに、VRゲームでは短いスパッツが強制装備されるので、パンツが見えることはない。彼女から少し遅れて、ウォリアーとプリーストもこちらに向かってくる。
「……この前の」
ワイスのレベルを見ると、80代になっている。前回よりかなり上げたらしい。
「お久しぶりです、ナオトさん」
「どもども~」
それはラックとノーブルも同様。
「ずいぶん、レベルが上がったな」
あたしがそう言うと、ワイスが胸を張って答える。
「新マップが開く前にと思って、頑張ってるんですよぉ!時間が合わないから、それぞれソロで!」
「大学の課題が思ったより早く済みそうなんで、今日はパーティーで!」
ノーブルが何か言ったが、意味は考えないでおく。ラックがあたしの腕の中を見て、にっこりと笑う。
「よく懐いてますね」
「クロだ」
懐き度は、高級なエサを与えて一気に上げた。大した出費ではなかった……と、思いたい。そして、ノーブルがまた余計なことを言う。
「それがナオトさんのハウンティング・キャット!孤高の猫使いと言われる所以ですね!」
だから、誰だよ!言い始めたのは誰だ!あたしはクロを地面に下ろす。
「にゃ~ご」
「かっわい~!」
ワイスが身をくねらせているが、中の人情報を知っているので気持ち悪くしか見えない。この点をどうにもスルーできないのだが、それは自分も異性のキャラクターを使っているせいだろうか。
「そうだ、ナオトさん。もしよかったら、フレンド登録をしたいんですけれど」
ラックが嫌なことを言う。
「この前、すっかり忘れてましたもんね~」
ノーブルなどは、一度杯を交わしたのだから登録して当然、という口振りだ。あたしとしては、もちろん登録したくない。フレンドチャットや、アイテムの受け渡しができるようになるが、ソロプレイヤーには必要ない。しかし、登録を拒否する理由もないのが事実である。現実のID交換と違い、これはゲーム内だけでのことだから。
「……わかった」
あたしは観念してメニューを開く。
(で、どうすればいいの?)
フレンド登録の方法なんて、あたしが知るわけない。コミュニケーション関係のウィンドウを開いてみるが、該当の項目が見当たらない。ノーブルが不思議そうに聞いてくる。
「ナオトさん、どうしたんですか?」
三人を見ると、メニューなんて開いていない。あたしは固まる。ここは、正直に言った方がいいだろう。
「済まない。フレンド登録をしたことがなくて、わからない」
何というぼっち宣言……。現実なら、顔を真っ赤にしていることだろう。
「握手、するんですよ」
ラックが右手を差し出す。ウォリアーの彼は、体格が大きめに設定されている。その手もがっしりしていて、大きい。
「握手……」
あたしはこわごわとラックの手を握る。アーチャーのナオトは、実際のあたしより二回りほど手が大きい。ラックに強く握り返されると、そこから淡い光が灯る。――フレンド登録、完了。
「次おれ!」
ノーブルが白い手袋をつけた手を差し出す。そこには、以前ドロップした指輪、ゴーレムの涙がはめられている。
「じゃあ最後はワタシ!」
ワイスは両手であたしの右手を握ってくる。よく見ると、ネイルアートが施されている辺り、LLO開発陣の無駄な努力が伺える。
「これでいい、のか」
三人の名前の横には、黄色い星のアイコンが追加されていた。フレンドを表す印である。このようにして、いとも簡単に「フレンド」登録ができたので、あたしは少々面食らった。現実で友達を作るには、話しかけるタイミングや、話題の内容を工夫しなければならない。その全てに失敗してきたので、あたしは今まで一人も友達がいない。
(でも、友達とフレンドは違う)
フレンドは、ゲーム内の機能だ。友達になりたくて、登録するわけではない。アイテム受け渡しのために、一時的に登録し、すぐ解除するということもできる。彼らがあたしに登録を求めてきたのも、他に下心があってのことだろう。だからこそ、あたしのことをいちいち褒めるのだ。
あたし、強いからね!
情報や、装備品のおこぼれを期待しているかもしれないし、浮かれていないで慎重にいこう。たかられたら嫌だもの。
(ん?浮かれてる……?)
あたしは、自分の感情に気づいて、絶句した。
「ナオトさん?」
ラックの声で気を取り直す。
「確認をしていた。アイコンが、つくんだな」
とっさに言い訳をする。
「これでログイン中は連絡が取れますよ!といっても、ナオトさんの邪魔はしませんからね」
ワイスがそう言って笑う。
「あくまでもソロプレイを貫くナオトさんの姿勢……かっこいいっす!」
ノーブルが唸っているのだが、あたしは仕方がないからソロプレイをしているだけである。それを、信念か何かということにされているが、訂正する気は起きない。勘違いしたままでいてもらおう。
「俺たちはここでレベルを上げますが……ナオトさんはどうされるんですか?」
ラックが聞いてくる。彼らが来る寸前まで、ログアウトしようとしていたし、それからフレンド登録なんてイベントが起きたので、もうプレイする気はない。
「ログアウトする。用事が、あるから」
彼らは特に詮索もすることなく、あたしを見送ってくれた。
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