15:白鳥の旅団
安心・安全があたしのモットーである。回復アイテムは多すぎるくらい常備しておく。格上の敵にはなるべく挑まない。そして、新マップはちょこちょこ進む。
「エナジー・アロー!」
がれきに身を隠し、骸骨のモンスター・スケルトンナイトを倒していく。消える前に、骨がカラカラと崩れていく演出がなされるが、中々よくできている。光属性に弱いらしいが、現時点では、アーチャーがその属性のスキルを習得することはできない。あたしは火、水、風、土の基本四属性を使えるが、無難に無属性のスキルを使っていく。二階層につき一つ、レベルを上げることにし、残り時間も考慮に入れながら予定を立てる。
(今日は3階までにしよう)
ソロプレイヤーのあたしが、効率的に攻略を進めるためには、ログインしていないときの情報収集が肝心となる。この先の階層にどんなモンスターがいるのかを知り、それ相応の準備をしておく。LLO内に知り合いがいたり、パーティーを組んで知り合ったりすれば、ログイン中にそういう情報は聞けるはずなのだけれど。あたしには、そういう相手がいない。ネットに投稿される情報が全てだ。
とは思いつつ、フレンドのログイン状況を確認している自分が憎い。彼らはまだ居るようだ。昨日会ったとき、彼らのレベルは80代だった。あれから時間ギリギリまで上げたとすると、ここに辿りついていてもおかしくない。
(ノーブルは光属性の攻撃魔法を習得しているのかな。ホーリー・レイン辺りの広範囲魔法があれば楽だろう。でも、パーティーの火力に頼っているプリーストだと、そちらのスキルは捨てているのかもしれない)
「にゃあ?」
考え込むあたしの足に、クロがまとわりついてくる。一定時間命令を下さないでいると、こうして甘えてくるのだ。
「時間がもったいないな。クロ、行こうか」
他人の心配をするなんて、あたしらしくない。ソロプレイヤーなんだから、自分のことをもっと考えるべきだ。誰も助けなくてもいいが、誰にも助けてもらえないのだから。
レベルが91になったので、3階へと進む。体力の低いコウモリ型のモンスター・デッドバッティーが出てくるようになったが、スケルトンナイトを集中的に狙う。奴は攻撃力が高く、まともに一撃を食らうとやっかいなのだが、死角が多い。本来目があるところが、赤く光っているのだが、それを視線の方向と考えていいらしい。常に死角に回り、移動しながら矢を放てば、ノーダメージで倒すことができる。
デッドバッティーは、本物のコウモリと同じで、超音波を使っている設定なのだろう。近づくとすぐさま襲ってくる。避けにくい上、かなり小さいので、攻撃を当てるのも難しい。それよりも、人型のモンスターの方がよっぽど狙いやすい。
「クロ、次は向こうの奴を狙うよ」
「にゃ……にゃ~あ」
次の標的を定めた瞬間、クロが立ち止まる。他のプレイヤーにスケルトンナイトをとられたようだ。いくつもの攻撃魔法が放たれ、スケルトンナイトは一瞬で骨の小山と化す。魔法の出所を見ると、白い羽根を胸につけたプレイヤーの軍団がいた。
「うわっ、白鳥の旅団か」
彼らは、「累計モンスター討伐数(ギルド)」で上位に位置する大手ギルドだ。LLOのギルド最大人数である、60人のメンバーがいるらしい。平均レベルが高く、常に高レベルのマップで狩りをしているので、何度も出くわしたことがある。
(悪い人たちじゃないんだけどな……)
彼らは大人数ながら、統率がよくとれており、狩場の独占などはしない。強くて礼儀正しい、ギルドの模範生のような方々だ。しかし、誇らしげにお揃いのアクセサリーをつけている辺り、あたしは気に食わない。
当然のことながら、あたしは誰かとお揃いの物を持った経験がない。キーホルダーとか、文房具とか、そういう類の。
小学二年生の時、クラスの女の子が、三組の友情の証!などと言ってビーズの指輪を配りだした日のことは未だに忘れられない。あたしの分はもちろんなかったのだけれど、それはわざとではなく、あたしの存在を「すっかり忘れていた」からであった。鈴原さんにも指輪をあげなさい、と教師は言ったが、あたしはそんなもの要らないと正直に言った。結局、指輪は女の子の親が回収。お揃いを取られた女の子たちは、あたしを恨むことになったのであった。回想終わり。
「どうしようかな、クロ」
「にゃあ~ん」
ペットに相談しても仕方がないのだが、何となく話しかけてしまうことがある。あたしはクロを抱きかかえ、白鳥の旅団の様子を眺める。どういう加入条件かは知らないけれど、鳥を連れているプレイヤーが多い気はする。白鳥のペットはLLOに存在しないので、フクロウやオウムが主だ。
(ほんと、鳥は人気だなあ。優遇されてるせいもあるけど)
特に、フクロウのメイジ・アウルのスキルの多さは酷い。威力は低いが、補助魔法全般が使え、基礎体力も高い。まあ、このペットのパラメーターが高く設定されている理由はよくわかる。動物の大量死滅現象が起こったとき、初めに死んでいったのがフクロウだったからだ。もう絶滅したとも、一部の森では生き残っているとも言われている、伝説的な生き物である。そういう種類ほど、VRゲームで人気があり、再現に力が尽くされている。
「お前は全く魔法使えないっていうのにね」
「うう……うにゃあ」
ペットと会話はできないのだが、プレイヤーの感情の起伏はわかるという設定である。自分に文句を言われたと判断したのだろう、クロが機嫌を悪くする。あたしはクロの頭をわしゃわしゃと撫でる。
時間はあと30分ほどだったので、白鳥の旅団のわきで、細々と狩りを続けることにした。新しい武器強化素材なのだろう、見慣れないアイテムもいくつか手に入った。そこそこ満足したあたしは、ログアウトしてすぐお風呂に入り、ろくに身支度もせぬまま眠ってしまった。
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