12:設定確認
ログアウトした後、夕食を採り、インスタントコーヒーで一息つく。LLOの公式サイトを開き、次回のアップデートについて確認する。
新しいマップは、死霊の塔というらしい。アンテッド系モンスターが巣くう20階建ての塔で、ボスは魔神の落とし子・リナリア。ハーディスの妹である。オルディアを殺害した張本人であり、ウェインによって封印された筈であったが――。
「こいつら、誰だっけ?」
最後にストーリークエストをこなしたのが随分前なので、LLOの設定なんかすっかり抜け落ちてしまっている。そもそも、MMORPGのストーリーを、きちんと把握しながら進めている人なんているのだろうか。LLOの世界観を説明したページを写してみる。
「えっと……なになに……」
混沌の時代――邪悪な力が世界を覆い、人々は苦しみ悶え、多くの血が流れていた。
そこに現れた一筋の光。ルミナスと名乗るその少女は、不思議な力で人々を導き、世界を混沌から救い出した。
それから数百年後。再び世界は闇に包まれた。絶望する人々に、亡きルミナスの魂が語りかける。
「集え、勇者たちよ。私の力をそなたたちに与えよう。そして、倒すのだ。忌むべき魔神・ダークネスを……!」
世界中の若者たちが、勇者となるべくルミナスの眠る祠に集結した。あなたもその内の一人だ。
ルミナスが与えてくれた「スキル」を使い、仲間と協力し、ダークネスを打ち倒そう!
ルミナスレジェンド――これは、新たな平和を手にするための、勇者たちの戦いである。
「うわぁ……ベタだ」
今さらながら、ストーリーの魅力の無さにぞっとする。NPCも、どこかで見たような設定のキャラクターばかりで、これがLLOは地味と言われる原因である。
それでもあたしが、LLOをプレイするのは、一体どうしてだろう?ペットシステムが優れているから?グラフィックが細かいから?少し考えたが、決定的な理由はわからない。
「雪奈?まだ起きてるの?」
母がノックもせずに部屋に入ってくる。
「い、いきなり入ってこないでよ!」
うちの母は、娘のプライバシーに鈍感だ。あたしは慌ててLLOのページを閉じる。プレイ中も、ずかずか入ってくるから嫌だ。部屋に鍵をかけようとしたこともあったが、父に怒られ断念した。
「今日はゲームやってないのね」
ケースにしまわれているヘッドギアを見て、母はそう言う。小言が始まることを察知して身構える。
「あまりやりすぎちゃダメよ。病気になった人もいるんだから」
「わかってるよ」
病気とは、VR中毒のことだ。仮想空間での出来事を現実だと思い込み、日常生活を送れなくなった人がいるらしい。元は仮想空間の世界の出身で、転生して現実世界にやってきた、と考えている人もいるとか。親族がVRゲーム会社を相手取り、訴訟を起こすという噂もある。
「大学の勉強もきちんとしているんでしょうね?お母さん、留年は許さないから」
「大丈夫だよ……」
その後も、母の攻撃は続いた。ようやく解放され、ベッドにどっと倒れ込む。一日の終わりとしては最悪のイベントだ。目を閉じて、今日あったことを回想する。
(演習の発表順が決まって、トイレで陰口言われて、授業さぼって、クロを瀕死状態にして、ラックたちとフレンド登録して……)
そうだ、フレンド登録をしたんだった。寝返りを打ち、彼らの手の感触を思い出す。現実のものではないのに、ひどく温かく感じたのだ。
(馬鹿か、あたしは)
もうすぐアップデート。そのことだけを考えて、今はとにかく眠りにつこう。
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