喪女のVRMMORPG日記
惣山沙樹
01:ソロプレイヤー・ナオト
あたしの本名は鈴原雪奈(すずはらゆきな)。大学一年生。ぼっち・喪女・鬼ゲーマーの三拍子揃ったダメ女である。
喪女とは、「モテない女」のこと。昔のネット用語らしいが、初めてそれを目にしたときから、自分こそがそうなのだと自嘲的に使っている。
両親の暑苦しいほどの愛情に支えられ、女子大生にはなったものの、花のキャンパスライフとは程遠い毎日を送っているからだ。入学式の時に買ってもらった黒いスーツだって、あたしが着ればまさしく喪服。華やかさは皆無であった。
授業中はいつも一人。恋人どころか、友人なんてできるわけがない。家に帰ればすぐにVRゲーム。それ以外に趣味がない。バイト代は全て、ルミナスレジェンド・オンライン――通称LLO――につぎ込んでいる。
LLOは、ヘッドギアを装着することにより、仮想空間を体験できるVRゲームの一つだ。西洋風のファンタジーRPGで、他のRPGと比べて地味なのは否めないが、バグが少なく安定している。さすが日本製だ。
LLO内のあたしのユーザー名はナオト。職業はアーチャー。レベルカンストの重課金ソロプレイヤーとして、ネット掲示板ではちょっとした有名人。
そう、ソロプレイヤー。
せめてオンラインゲームでは友達作れよ、と自分でも情けなくなる。けれど、ゲームでもコミュ力が必要なのは同じだし、女なのに男キャラ使ってるし、それがバレたら嫌だし。
そんなわけで、パーティーを組まずにプレイしていたら、すっかりソロでのやり方が身についてしまった。今さら誰かと組んでも、集団戦を知らないあたしは足手まといになるだけだろう。
別にいいんだ。別に。小学校のときから友達なんかいなかったし。
それに、あたしには心強い相棒がいる。ハウンティング・キャットのクロだ。LLOにはペットシステムがあり、戦闘のサポートをさせることができる。便利なのはもちろん、めちゃくちゃ可愛い。
「クロ、挑発!」
レベル70のモンスター、ブラッディーオーガに、漆黒の猫を放つ。ブラッディーオーガがクロにターゲティングしたことを確認し、背後から矢を打ち込む。
「エナジー・アロー!」
魔力を込めた矢を射るスキルは、発動後の硬直時間が長いことが難点である。しかし、ターゲティングはクロのままだから、硬直が解けるのを待つ余裕は充分だ。
「エナジー・アロー!」
二度の攻撃でブラッディーオーガは倒れた。クロにドロップアイテムを拾わせ、呼び寄せる。雑魚敵を狩るときの、最もシンプル且つ効率的な方法だ。体力値を振っていないため、こうして無傷で敵を倒すことが何よりの安全策である。
「クロ、ご苦労さま。今日はこの辺にしよう」
「うにゃ~ん」
あたしはしゃがみこんでクロの頭を撫でた。脚に身体をこすりつけてくる様子は、可愛すぎて身悶えしてくる。LLOのメーカーは、ペット飼育のVRゲームを過去に出しているので、動作パターンが豊富だ。
(可愛い!可愛いよぉ!)
抱き上げて頬ずりしたくなったが、今は狩場にいるということを再確認し、踏みとどまる。LLOでのあたしは、ナオトだ。均衡のとれたたくましい身体と、切れ長の瞳を持つ男キャラである。そんなグラフィックのプレイヤーが、ペットにデレデレしているところなんて見られたら、中の人は女ということがバレるかもしれない。
「ホーム帰還」
LLOプレイヤー全員に与えられる、小さな部屋にあたしとクロは転移する。ここなら他のプレイヤーを気にすることはない。メニューを開くと、残りプレイ時間が30分ほどあった。VRゲームには、連続プレイ時間が定められており、RPGの場合は三時間である。これを超えると、強制ログアウトされてしまうのだ。
「クロ~!ぎゅうぎゅう~」
「ふにゃ~ご」
あたしは残り時間をクロとのスキンシップに使うことにした。まあ、毛の感触であったり、匂いであったり、そういうものはわからないんだけど。本物の猫を飼えない世代のあたしにとっては、これで充分なのだった。
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