ちょっといいモノ食ってみよう
狐付き
下仁田ネギと岩津ネギ
ボクは今までネギの最高峰は下仁田ネギだと思っていた。
鍋に入れるとわかるあの迫力。太いだけあって場の支配力がある。陣取り合戦だったらかなり優位に立てるほどだ。
見た目のインパクトもさることながら、あの太いネギが煮込むだけでとろっとろにやわらかくなり、甘みが増す。ネギの辛味は熱によって分解されるため、余分なことなくネギの旨味を楽しむことができる。素晴らしい。
そんなとき、そろそろ下仁田ネギの時期だろうとネットでネギのことを調べていたら奴が出てきた。そう、岩津ネギだ。
太さ的には普通のネギとなんら変わりがない。だがやたらと美味いと評判だ。
ネギ好きというわけではないが、美味いもの好きなボクとしては、ちょっと興味が出た。しかし今まで下仁田ネギ最高と思っていたボクが、今更見た目普通のネギで満足できるだろうかと思ってしまった。
そんな話を家族にして暫くしたとき、突然奴が現れた。
ふるさと納税で家族が岩津ネギを手に入れたのだ。それも大量に。
これは食うしかない。色々と食い倒せるぞ。
とりあえず束になっている奴を解放し、横にして手に持ってみる。それなりの重量だが、ネギは元々水分が多いから別段凄いというわけではない。
しかしそのとき、横からべちょりとゲル状のなにかが落ちた。水分をふんだんに含んだネギ液だ。それほど水分を含んでいるのかとちょっと驚く。これは期待できる。
その翌日、奴は鍋で煮込まれた。土井先生曰く、鍋に最適なネギらしい。
対するは下仁田ネギで慣らされたボクの舌。食戦開始だ。
……美味い。確かに美味い。
少し硬めの外皮の中にあるのは、ボクの求めていたネギの旨味そのものだ。少し薄めとはいえ鍋のだしに晒されて尚、旨味をしっかりと閉じ込めている。
何層も厚く作られ封じている下仁田ネギと違い、こいつの太さは普通のネギだ。にも関わらずこれだけの旨味。スバラシイ。
そしてボク個人として最も重要な熱の逃げだ。
下仁田ネギはその圧倒的な大きさからわかるように、熱が逃げない。猫舌なボクにとってこれが最も厄介なところだった。しかしこいつのサイズは普通ネギ。それなりに熱は冷めてくれる。食いやすい。
猫舌な人でなくとも鍋好きであればわかると思うが、ネギは人に襲い掛かってくる。食われる瞬間、最後のひとあがきとばかりに最も熱が残る内側が口の中へと飛び込んでくるんだ。この攻撃は凄まじく、口の中を火傷させ、その後の味覚へ影響を及ぼさせる。
しかし奴はそこまで熱を篭もらせない。ありがとう、岩津ネギ。
だが岩津ネギには罠があった。青い葉の部分は青臭い。鍋に入れて煮込んだところでそれは消えないで残っている。ここが下仁田ネギとは異なる部分だ。
食えないこともないのだが、苦手な人には厳しいだろう。首から下だけで楽しむしかない。
それでも白い部分はかなり優秀だ。他人にオススメできる。
翌日は焼いて食べた。うまかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます