あたしと回覧板2
「まったく君は!
「座敷童さん、座敷童さん」
「ん? だめだぞ。きちんと反省するまで君はそこで正座してるんだ!」
お風呂上がりで血行の良い頬をさらに赤くしながら、座敷童さんは怒っていた。
猛攻と言わんばかりの質問であたしが羽根さんにしたことを知った座敷童さんは、部屋に戻ろうとしたあたしを居間まで引きずって正座させた。
正座はなんら問題とならないが、なぜ座敷童さんがここまで怒っているのかまるでわからない。あたしは座敷童さんの評価を下げないように行動しただけなのに。甚だ遺憾であるとはこのことだ。
「何を、怒っているんですか?」
「君はっ!」
「座敷童さんの処遇が悪くならないように対応したの、迷惑でしたか?」
「…俺の、処遇?」
「はい、手ぶらで帰すなんてことになれば座敷童さんの沽券にかかわると思いまして…」
「君…俺のために?」
こっくり頷けば、先ほどよりも顔を赤くした座敷童さんが、その白い手で顔を覆いあーとかうーとか唸っていた。なんぞ?
それを見ながら、これはごまかせると踏んだあたしが苦く笑えば、顔から手を離してきゅっと唇をかみしめた座敷童さん。
俯いたかと思うとすぐに顔をあげ、先ほど怒っていたことなんてまるで無かったことのように晴れやかに笑った。
「そ、そういうことなら、まぁ。でも、次はだめだぞ!」
「はい、ちゃんとお土産は用意しておきます。ところで」
「そう言うことじゃないんだが…どうかしたのか?」
「座敷童さんは
思いっきり題をすり替えれば、座敷童さんはあぁ…と照れたように頷いた。さらりと白い髪が白い着物の上を滑って落ちた。
だまされやすいぞ座敷童さん。大丈夫か。自分でやっておきながら若干心配になってしまったあたし。まぁそれは置いといて。
「俺の名前は飴呑、稀少価値5の座敷童だぜ!」
「稀少価値?」
「君たち人間…
つまり
本当にドッペルゲンガーだなとあたしは何回も首を縦に振った。
最低ランクの稀少価値1だと25人は同じ座敷童がいるらしい。もちろん憑いている家は別だそうだが。
しかし何というリアルホラー。こわい。名前を呼べば、あちらこちらから同じ顔が覗くとか。ホラーだ。
ではなく。
「飴呑さんはレアなんですね」
「れあ?」
「珍しい、です」
「あぁ、そうらしいな。俺も他の分霊体には会ったことがないし」
そこではっとしたかのように座敷童さんがあたしを見た。どこかおずおずとうかがう様な眼差しで、その瞳は不安にだろうか、揺れていた。
ん? 今の会話のどこに不安を感じる要素があったのだろうか。
「…会ってみたいか?」
「はい?」
「違う、俺じゃない飴呑に」
「まぁ、気にはなりますね。でも」
「でも?」
不安に潤む眼差しと下がった眉に苦笑して、あたしはそっと座敷童さんの手を包み込んだ。手の大きさの関係で全部は包めなかったが、仕方ない。
男らしく筋張った手に自分で掴んでおきながら離したくなったがそれをぐっと我慢して、あたしは口を開いた。
「『飴呑さん』が何人いようとも、あたしの‘座敷童さん‘はあなただけですよ」
「はうっ!」
「How?」
どうやって? …何が? いきなり英単語を繰り出してきた座敷童さんがわからない。何がどうやってなのだろう。
はてなマークを頭の上に浮かべまくるあたし。だって意味が分からないし。どういう意味ですかと質問を乗せて座敷童さんを見るものの、全然気づかれない。むしろなぜか悶えていて気付く気配すら感じえない。
どうしたんだろうか、座敷童さん。
「き、君は…!」
「はい?」
「…いや、何でもない。もう部屋に戻っていい」
悶えつつも呆れたようにため息をつくという高等技術を披露しながら、座敷童さんはぐったりとちゃぶ台に身を預けた。どうしたんだろう、本当に。
それを見つつも、そろそろ夜も遅いのであたしは部屋に帰ることにした。
「それじゃあ。おやすみなさい、座敷童さん」
「あぁ。…いい夢を」
「良い夢を」
ぱたんと閉じた襖を最後に、あたしは自分の部屋へと戻るため廊下を歩いていったのだった。
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