あたしと恋文2
「すまない、取り乱した」
「いえ、こちらこそすみませんでした」
ちゃぶ台を挟んで座りながら、あたしと座敷童さんはほぼ同時に頭を下げた。部屋の電気もつけて夕も暮れた宵の口だった。
頭を下げながらあたしは、後悔でいっぱいだった。あー、座敷童さん泣かせちゃった、と。大事にしたいとか言ったばかりなのに。そもそもあたしだけが悪いんじゃないとは思うけど、その引き金を引いたのは間違いなくあたしである。
でも座敷童さんだってあんまりにもひどいことを言うから。座敷童さん以外の人といた方が幸せになれるなんて誰が決めたの。幸せってしてもらうものじゃないでしょう? 自分で、2人でつかみ取っていくものでしょう? それなのにあんなこと言うから、つい強く言ってしまった。
でも座敷童さん泣いてた。あー、もうどうしよう。悶々としたまま頭をあげると、座敷童さんとばっちり目が合ってしまった。気まずそうに目線をそらし、座敷童さんが口を開く。
「俺が…君を疑ったから」
「いえ、あたしが座敷童さんにラブレターなんて見せたから」
「…よくもらうのかい?」
「え?」
「恋文を」
「いえ、初めてでした。あたしだって女の子ですから、こういうの、嬉しいんですよ」
「そうか…」
なにか思案顔で黙り込む座敷童さん。いったいどうしたというのだろう? なにかあたし気になることでも言ったかな? っていうかやばい。この質問はさっきの問答を抉ってくるぞ。早急に話題を変えなければ。
早々に悟ったあたしは、座敷童さんに渡した紙が2つに折れた状態でちゃぶ台の中に置いてあるのを見つけた。内側に折られているから中身は見えない。
話題替えには妥当な案だろうとあたしがそれを見ていれば、あたしの視線の先を追って座敷童さんも気づいたらしい。あたしに向き直ると、それについて尋ねてくる。
「そ、そういえば。さっき渡された紙って何なんだい?」
「文化祭終了のお知らせです」
「え」
「え?」
「終わったの、か?」
「はい、
一昨日、座敷童さんからドレス借りて学校に行ったでしょう? とあたしが告げれば、座敷童さんはこっくり頷いた後そのままがっくりと首と肩を落とした。なんだというのか。
もしかして座敷童さん文化祭来たかったのかな? それは悪いことをしたなぁとあたしは自分の頬を掻いた。だって座敷童さんってなかなか自分から外に出て行こうとしないから、今回も来ないかと思った。
まぁどっちみち1生徒3枚までの入場券制で、あたしはチケットの全部を家族に送ってしまったから。座敷童さんは入れなかったわけなんだけれども。
あまりにもがっくりとした座敷童さんを慰めようと口を開きかけたところで、座敷童さんが悲しそうにつぶやいた。
「なんで、呼んでくれなかったんだ」
「座敷童さん」
「俺も、君と文化祭を見て回りたかったのに」
「そうだったんですか、すみませんでした」
艶のこころに100のダメージ。座敷童さんの悲しそうな顔には耐えきれず、もう一度すみませんでしたと言えば。
儚く笑って、別に終わってしまったものは仕方ないと言う座敷童さん。艶のこころに80の追加ダメージでターンエンド! ・・・どこのゲームだ。ではなくて。
「すみません入場券を持っていない方は入れないようになっていて…」
「俺は座敷童だぞ? 存在を薄めればいけたんじゃないか?」
「あ…」
確かに。思わずうなずきそうになって、首を横に振る。ずる、よくない。そんなあたしの様子を見て座敷童さんが不思議そうに首を傾げる。可愛いけど、だめだよ。出来るからってそんなことしちゃ。ずる、よくない(2回目)
「誘ってくれればどんな無理を通してでも行ったんだが」
「だめですよ。それに…」
「それに?」
そっとちゃぶ台越しに、座敷童さんのどこかひんやりと冷たい頬に手を添える。
「あなたという花の美しさを、他者と分かちあえるほど。あたし、心広くないんですよ」
狭量と笑ってくださいと言えば、ぽかんと口を開けた座敷童さんが、じわじわとその意味を理解したのかあたしの手の中で赤く、熱くなっていく頬。
だって座敷童さんはあたしの座敷童さんなんだ。下手に人が多いところに連れていって誘拐でもされたらどうすると言うのか。それでなくてもこんなに可愛いのだから、不埒なやつに目をつけられたり、ナンパとかだってあり得るかもしれない。あれ? 逆ナンっていうんだっけ? まぁどうでもいいや。
つまり座敷童さんを連れておいそれと外出なんて出来ようはずもない。子どもっぽい独占欲だが、それさえわかってもらえれば。
「そ、それなら仕方ないかな!? う、うん!」
添えたあたしの手を振り払うようにそっぽを向きながら、座敷童さんは早口に言った。赤くなった頬、不自然なまでにそらされる視線、早口これらのことから考えられるに…座敷童さん、照れてる?
なんだかほのぼのした気分になりながら笑っているあたしに気付いた座敷童さんが、むっとして声をあげた。
「何を笑っているんだ」
「すみません、あなたがあまりにも愛らしくて」
「あい!? …と、ところで。君は文化祭で何をやったんだ?」
「あたしですか? うちのクラスは劇やったんですよ。浦島太郎」
「おぉ! 乙姫だったのかい!?」
「いいえ、海でした」
「え」
「え?」
あたしの役どころを聞いて固まってしまった座敷童さんに、あたしは首を傾げた。海のなにがいけないのだろうか。そういえば劇を見に来た両親も座敷童さんと同じような顔してたな。こう…何とも言えないって顔。
小豆転がしたりとか結構重作業だったんだけど。でもまぁ、楽しかった。転校してきてから完全に馴染めているとは言えないクラスだったけど、文化祭中は話しかけてくれたりなんかして前より馴染めた気がする。
「う、海って…。この前ドレス持っていったじゃ」
「あ、童話シリーズのやつですよね? クラス衣裳として提供させてもらいました」
「そう、なのかい」
君が着たと思っていたのに。呟かれた座敷童さんの言葉がわからないまま、あたしたちは時計を見て、夕食のために台所に向かったのだった。
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