[3] 到達

 北方軍集団は8月中旬、北西部正面軍のスタライヤ・ルッサにおける反撃によってレニングラードへ突進させる装甲兵力を削らされる結果となった。

 8月15日、ヒトラーは北方軍集団の戦力を増強させるために中央軍集団の第3装甲集団に所属する第39装甲軍団を転属させるよう命令を下した。この命令により、第3装甲集団は第39装甲軍団と第57装甲軍団の第19装甲師団(クノーベルスドルフ少将)が北方軍集団に分派された。「総統指令第21号」と「総統指令第34号」に示された通り、レニングラード攻略の支援に振り向けられる形となった。

 レニングラードを防衛するソ連軍の内部では、8月末から9月初旬にかけて指揮系統の大幅な見直しが行われた。

 8月27日、まずレニングラード一帯の正面軍を統轄する上級司令部であった「北西戦域司令部」が解消された。スターリンは北西戦域司令官ヴォロシーロフ元帥を9月5日付けでレニングラード正面軍司令官に格下げさせた。

 これまでのソ連軍の度重なる退却により、レニングラード市民の士気を大いに喪失していた。しかし、ドイツ軍もまた作戦方針の変更や秋雨による泥濘によって、2週間の周期で度重なる攻撃中止を被っていた。

 モスクワから派遣された評議員ジダーノフはドイツ軍の進撃停止により出来た時間を利用して、市民に抵抗を呼び掛けていた。防衛施設の建設には老若男女を問わず、あらゆる民間人が総動員され、昼夜兼行で市の周辺に約2万8760キロの塹壕を掘り、約676キロの鉄条網を張り、木造を含めて5000余りのトーチカを構築した。

 8月29日、第39装甲軍団と第16軍の第28軍団(ヴィクトリン大将)から編成された機動集団がレニングラード南東のノヴゴロド付近でから、ラドガ湖に向けた新たな攻勢を開始した。第20自動車化歩兵師団は同日、レニングラード東方に位置する鉄道の要衝ムガを攻略した。

 8月31日、モスクワの「最高司令部」はレニングラード南方のクラスノグワルジェイスクとその周辺の陣地帯を守る兵力として、第42軍(イワノフ中将)と第55軍(ラザレフ少将)を創設するようレニングラード正面軍司令部に命じた。

 北方軍集団の第4装甲集団はエストニアから進撃する第18軍が追随するのを待った後、レニングラードの占領を見据えた最終攻勢の準備を進めていた。攻勢開始日は9月9日とされていた。

 9月4日、第4装甲集団の総攻撃に先立ち、レニングラード南東のトスノ地区に展開した砲兵陣地から市街地に対する長距離砲撃を開始した。当日は霧に覆われ視界が悪かったが、240ミリ重砲から放たれた砲弾がヴィテブスク貨物駅やダローニン工場、食料を備蓄するバターエフ倉庫、第五水力発電所などに直撃し、市民にも犠牲者が出た。

 9月6日、第39装甲軍団はラドガ湖へ向けた攻勢を再開した。

 9月8日早朝、第39装甲軍団はフィンランド湾を結ぶネヴァ河河口の商都シュリッセルブルグを占領した。レニングラードと内陸部を結ぶ鉄道と陸路を完全に封鎖され、形式上は包囲が達成された。第1航空艦隊が同日の夜、レニングラードへの大規模な空襲を実施した。大型爆弾と焼夷弾によって市内の至る所が焼き尽くされた。

 9月9日、第4装甲集団によるレニングラードへの最終攻勢が開始された。ラドガ湖西方に開いていた狭い回廊を、第41装甲軍団の第1装甲師団と第36自動車化歩兵師団は第18軍の第38軍団(チャップイス大将)に支援されながら突進した。

 9月11日、第1装甲師団は3日間に及ぶ白兵戦の末、幾重もの塹壕が張り巡らされたドゥーデルゴフの丘とその周辺の高地を占領した。市街地の外縁から南西約15キロの地点だった。11時半、ある兵士が丘の頂上から師団司令部に無線で報告した。

「ペテルブルクと海が見えます」

 レニングラード正面軍司令官ヴォロシーロフ元帥は独裁者の譴責を恐れて、シュリッセルブルクが占領された事実をモスクワへ報告しなかった。この重要な事実を別ルートから聞いたスターリンは指揮官としてのヴォロシーロフの能力に見切りをつけた。

 9月12日、スターリンは予備正面軍司令官ジューコフ上級大将にレニングラードへ向かうよう命じた。

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