[2] ルガ攻防戦
順調な進撃を続けていた第41装甲軍団に対し、第56装甲軍団の進撃は想定に反してあまり芳しいものではなかった。その先の進路には密林と湿地が広がり、車両が通行できる満足な道路は存在しなかった。
7月4日の夜、マンシュタインはヘープナーに対し、「第41装甲軍団から一部の部隊を支援のために割けないだろうか」と訴えた。しかし、このとき第41装甲軍団はソ連軍のKV1とKV2の反撃を受け、燃料・弾薬ともに不足していた。
戦況を総合的に判断したヘープナーはマンシュタインに対し、新たな命令を下した。その内容は、セベシ付近で防衛線を突破した第8装甲師団(ブランデンブルガー少将)を当初の目標であったオポチカではなく、オストロフの東方に突進させ、チュードヴォ付近でレニングラード=モスクワ街道を切断するというものだった。
7月10日、モスクワの「最高司令部」は同日付けで、北西部正面軍と北部正面軍を統括する「北西戦域司令部」を設立した。北西戦域司令官ヴォロシーロフ元帥は防衛の重点をルガ河上流に置き、第11軍にソリツィ付近で反撃に出るよう命じた。
7月14日の早朝、第21戦車師団(ブーニン大佐)の支援を受けた第11軍は、交通の要衝チュードヴォに迫ろうとする第56装甲軍団に襲いかかった。不意の反撃によるパニックと兵力差を活かして、第11軍は第8装甲師団を包囲することに成功した。その西方では第3自動車化歩兵師団の背後を遮断しようとしていた。
この危機に、マンシュタインは第8装甲師団にソリツィを放棄して南へ脱出するよう命じ、空軍に補給物資の空中投下を要請した。包囲戦は4日間に渡って続いた。SS師団「髑髏」(クラインハイスターカンプ大将)が救援に到着したことで、第56装甲軍団は壊滅の危機を脱した。
7月10日から進撃を始めた第41装甲軍団は、当初の計画通りレニングラード街道を直進してルガを突破しようとしていた。北西部正面軍の反撃は微々たるもので、ラインハルトはソ連軍の背後から装甲部隊を進出させようとした。しかし、先鋒から装甲部隊が湿地帯に突入してしまい、進撃が不可能であると報告がなされた。
ルガとその南方には、北西部正面軍副司令官ピャドィシェフ中将が機動集団を配置しており、北方軍集団を湿地に囲まれた見通しの悪い森林へと誘い込んでいた。そして、この作戦を破壊工作の訓練を受けた共産党員のゲリラ部隊(4個大隊)が支援していた。
7月12日、北西部正面軍の頑強な抵抗に遭遇した第41装甲軍団はサポリエからプリューサに至る線で停止に追い込まれてしまった。
この戦況に、ヘープナーは時間の浪費を避けるべく、作戦の見直しを始めた。航空偵察によって、北西部正面軍はルガ河に沿ってルガの市街地を要塞化していたことが判明した。しかし、同様に北翼のルガ河下流には敵の兵力が少なく、防御陣地の構築もまだ進んでいないことを確認できた。
ヘープナーはラインハルトに大規模な北への転進を行い、ルガ河下流のサブスクとポレチエを占領するよう命じた。攻勢の最中だった装甲部隊は150キロから180キロの強行軍をただちに開始し、沼沢地に造られた粗末な「丸太道」を突進した。
7月14日、第41装甲軍団の2個装甲師団(第1・第6)はルガ河下流に到達し、サブスクとポレチエにそれぞれ無防備な対岸に橋頭堡を築くことに成功した。この地域へのドイツ軍の襲来はまだ先だと考えていたヴォロシーロフはショックを受け、ただちに投入可能な予備兵力を第41装甲軍団の橋頭堡に差し向けた。
このとき、反撃の中核を担ったのは第2人民義勇兵師団(ウグリューモフ大佐)とレニングラード士官学校の学生で編成された2個中隊だった。その反撃は当然ながら、お粗末なものだった。ヴォロシーロフ自ら前線に立って指揮を執るも、第41装甲軍団はルガ河の橋頭堡を守りきることに成功する。
レニングラードへの最後の障害を攻略した第4装甲集団は士気も高まり、さらなる進撃命令を意気揚々と待っていた。しかし、ヒトラーが7月19日付で下した「総統指令第33号」は、第4装甲集団に対して第16軍・第18軍の歩兵部隊が追いつくまで進撃を「停止」するよう求めていた。ヘープナーは上官である北方軍集団司令官レープ元帥に猛烈に抗議したが、ヒトラーの決定が覆ることは無かった。
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