第2章 憧れの巨乳~理想と現実~

 胸部の第二次性徴が不発に終わり、貧乳生活を送ってきた私は、かなり、それはもう人一倍、巨乳に憧れがあった。私の夢の1つに、ルパン三世の不二子ちゃんのように、胸の谷間に物を隠してみたいというものがあったし、大学時代男性陣がおっぱいパブに行ったという話を聞けば、自分も行ってみたいと手が届かない楽園に思いを馳せた。巨乳の友人の家に泊まった際、私の情熱を酌んで一揉みさせてもらったのだが、その時のマシュマロのような感触・幸福感は、私の生涯の宝物である。


 そんな私が、妊娠出産すると乳がでかくなるらしいという情報を得た時の、期待と喜びがいかに大きかったかは容易に想像していただけると思う。私周辺の聞き込み調査によると、個人差はあるが大体一回りから二回り大きくなるらしい。胸上部からパーンッと前に張り出すとのことなのだ。ところがみんな口々に、「青筋立ったメロンみたいな感じ」「期待されるようなふわふわおっぱいじゃないよ」「動物的で魅力のない乳」などと残念な印象を語り、さらには授乳が終了したら元の大きさに戻るどころか、えぐれるレベルで萎むという悲しい現実を突きつけてきたのだ。


 しかし私は挫けなかった。青筋立とうが動物的だろうがデカくなるもんはデカくなるのだ。最後にはえぐれる運命だとしても、元々ない乳なのだ、失うものは何もない。たった一度でも一時的にでも、巨乳気分を味わうことが出来るのだとしたら、それはこの上ない幸福に違いないじゃないか。



 念願の妊婦になり、私は自らの乳をカメラでおさめて成長記録を付けることにした。いつデカくなるかと心躍らせて記録を続けたが、一回り大きくなったかな?程度で、そこまで明確な巨乳感を味わうことは出来なかった。噂に聞く上からパーンッと張ることもないし、お腹がバストのアンダーラインの位置から前にせり出してくるので、せっかく一回り胸が大きくなってもトップとアンダーの差が縮まってしまい、結局元のサイズ感に戻ったりした。妊娠後期になるとホルモンの関係で乳首が黒くなったりして、なんだか鏡の前でがっかりしたものである。


 しかし諦めるのは早かった。出産後お腹がへこんだ分大き目に見える程度の乳は、わずか4、5日の間に急成長を遂げ、元の二回り…いや三回りはデカくなり、谷間が、夢の深い谷間が、自然に生み出されるまでになったのだ!母乳がよく出るようになると、噂通り乳房は上からパーンッと張り出すようになり、乳首はつんと上を向き、ついに私は巨乳を手に入れた。


 中身が脂肪ではなく母乳の為、どっしりとした重量感があり、慣れない重みで肩は凝るし、確かに静脈が透けて見えたりして理想的なおっぱいではなかったが、授乳後の乳はふわふわ柔らかかったし、「おっぱい大きくて肩凝っちゃうー」という憧れのセリフをこれ見よがしに言うことができたので、十分に満足できた。



 ところが私の乳は所詮かりそめの巨乳であったので、そのもろさが露呈する事件が起きた。左の乳の方が母乳の出が良かったので、ついつい左ばかりで授乳していたところ、右の乳腺が衰え乳房が萎み、逆に左は発達してでかくなり、左右差がものすごいことになってしまったのだ。元々左の方が若干大きかったのだが、それにしても見た目のあまりの不恰好さに、慌てて右で率先して乳を与えるようにしたのだが、母乳生産をさぼりがちだった右は出がより悪くなっており、また、上部がしぼんで乳房の形自体が吸いにくくなったからか、食事に余計なエネルギーを使いたくない赤ん坊は、右だとすぐ口を離すようになってしまっていた。

 このままだと乳が左右で山・丘になってしまう…必死にマッサージをしたり手で支えて授乳したりと工夫した甲斐あって、数週間後には左右差がほとんど分からないまでに回復した。授乳は左右均等に!胸に刻んだ出来事であった。


 さて、憧れの巨乳を手に入れた私。夢をかなえようと不二子ちゃんのおっぱいポケットを試みたが、私程度の乳では小銭程度が限界で、柔らかさも足りずにいまいちな収納力で、あまりいい結果は残せなかった。なにより谷間は意外とよく汗をかくので、収納したものが湿ってしまうという欠点がわかり、物を隠すには不適切な場所であることが分かった。


 さらにはブラウスなどを着て分かったことだが、胸が大きいと、シルエットが太って見えてしまうことも発覚した。ウエストは産前と変わらないのに、胸が前後左右に突き出た分、胸から下の布部分も突き出て広がってしまうので、腹と服の間にかなり空間が出来て、本来の体型より一回り大きく見えてしまうのだ。かといってピッタリしたものを着れば胸が強調されすぎてしまうし、世の中の巨乳の方は苦労しているんだな、と、今までの浅はかな自分を恥じることとなった。



 妊娠・出産によって、想像するしかなかった巨乳の世界を垣間見て、その現実を体感することができ、大変に興味深い幸せな経験をすることが出来た。やっぱり巨乳は良いものである。が、逆に貧乳の良さも改めて知ることが出来た。最終的な結論としては、普段は貧乳で、妊娠・出産で一生に何度かだけ巨乳の時期があるくらいが、一番楽かつ面白くていいのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る