第22章 生でやったら人生変わるんだぜ
つらつらと私が経験したことを書いてきたが、出産を終えてもまだ理解できずに不思議に思っていることがある。それは、なぜ妊娠したら困る人ほど避妊しないのかということである。
ドラマでも「妊娠しただって?!困ったことになった…」と、喫茶店で暗い顔を突き合わせて悩むシーンがたまにあるが、いい大人が何言ってるんだろうと笑ってしまう。別にできてもいいや、それを機会に結婚しようというスタンスなら理解できるが、望まない妊娠をして仕方なく結婚して結局離婚するというパターンには、なぜ?と頭を捻ってしまう。
一時の快楽につい身を任せてしまったのだろうが、特に男性の方は知識が足りないという方も、もしかしたら多いのかしらと思ったので、少しだけ基本的なことと、避妊が失敗した時の対処法をここでお知らせしておこうと思う。大変失礼なことに御存じのことばかりであれば、この話はそっくり読み飛ばしていただけたら幸いである。
性行為をすれば危険日だろうが安全日だろうが、妊娠する時はする。中で出そうが外で出そうが妊娠する時はする。確か学校で習った気がするのだが、とにかく物理的避妊をしなければ、妊娠する可能性は常にある。
逆に危険日に性交渉しても、中で何度も出しても妊娠しない事も大いにある。可能性が高まったり低くなったりの差で、運の要素が大きいのだ。
これはなぜかというと、女性の場合は卵子、男性の場合は精子、目に見えないこれらのものが気まぐれであるからだ。卵子は月に一回子宮(正確には卵管だが分かりやすいように以降も子宮の表現で進める)にやってきて1日経ったら死ぬのだが、いつやってくるのかが分からない。生理周期から大体予想することは出来るが、実はズレていて変なタイミングで子宮に待機していることもある。安全日だと思ったのにお前そこにおったんかい!と、目で見て分かればいいのだが、分からないのでそのたった1日を正確に把握することは難しい。
精子も気まぐれだ。ぱっと出て何時間以内に死ぬ、と決まっていたら扱いやすいが、寿命に幅がある。2、3日で力尽きるものもいれば1週間もしぶとく泳ぎ切るものもいる。せっかく安全日だと思っていたのに、ちょっとずれたタイミングで待機していた卵子に、たまたましぶとく生き残った精子がぶつかってしまえば妊娠してしまう。
卵子も精子も気まぐれだが頭は悪いので、ニアミスしてもぶつからずに素通りして受精を免れることもある。とにかく運なのだ。
俺運いい方だし!運試しだ!などと気軽にやってしまう人もいるのかもしれない。しかし望まないのに子供ができたら、周囲に泣かれるわ殴られるわの修羅場になる可能性が大きいし、世間体にも影響が出るし、産むにしろ産まないにしろとにかくお金がかかる。トンズラしないことを前提にすれば、産んだら養育費などがこの先ずーっと降りかかってくるが、産まなくても堕胎費用に10~30万はかかる。30万くらいわけないし!という方もおられるとは思うが、堕胎というのも手術であるので、経過が万が一悪かったりすると不妊につながることもある。さらに多大なる精神的ダメージを食らうこともあるので、女性の負担がとんでもないことになる。場合によっては慰謝料も発生する。運試しをするにはリスクが高すぎるのだ。
ではゴムをつけたくない人向けの避妊、ピルを彼女に飲んでもらおう!と気軽に考える方もいるかもしれない。しかしこの避妊方法は女性が積極的でなければかなり難しい。
ピル、ピルとよく聞くが、要するにこれはホルモン剤で、卵子が出てくるのをストップさせるものである。生理痛がひどすぎる人にも使われるのだが、飲み始めに吐き気やら頭痛やら副作用が起きることがある。これは徐々に体が慣れれば消えるのだが、初めのうちは飲むのがつらい人もいる(生理周期をずらすために同種薬物を飲んだ際は、初日だけだが私は気持ち悪くて吐きそうになった)。
それを乗り越えても、毎日だいたい同じ時間に忘れずに飲み続けなければ避妊効果は失われてしまう。つまり年がら年中、性交渉する予定のない日も、毎日毎日避妊のことを考えなければならないのだ。「あー今日は仕事疲れた、でも避妊しなきゃ…」「今日は友達とお泊り会!でも避妊しなきゃ…」正直負担になる日もあるはずだ。
さらにピルを手に入れるためには定期的に病院に通わなければならない。避妊目的だと保険がきかないので、1か月分3千円前後を払い続けなければならない。病院でも薬局でも、「あ、この人避妊したいんだ」と思われるのが恥ずかしい女性は多いはずである。
と、ここまでは「ずっと生でやりたい人」向けの情報であったが、「ずっとはいらない!一回だけ!生でやってみたいんだ!」という方はピル1シート(一ヵ月分)あれば、正しく服用すれば期間限定で生でやりまくれるので、一度彼女に頭を下げてお願いしてみるのも手である。(ただし生だと性病は予防できないので注意が必要。)
もう一つ代表的な非物理的避妊法に「女性に基礎体温を測ってもらう」というのがある。実は女性はホルモン周期に合わせて微妙に体温変化がある(生理前には微熱近くまで上がった状態が続く)ので、これを記録することにより気まぐれな卵子がいつ降りてきたのかを可視化することができるのだ。これには初期投資として、婦人用体温計と呼ばれる小数点以下第2位まで測定可能な特別な体温計を購入しなければならない。
測定の仕方も特別だ。繊細な温度変化を記録しなければならないので、朝目覚めたら起き上がる前に口で測らなければならない。朝はただでなくとも忙しいのに、寝ぼけ眼で舌の下に体温計を突っ込んで、しばらくじっとしていなければならないのだ。しかも大体毎日同じ時間に測る必要がある。とにかく面倒くさい。
こんなに面倒なことを頑張って続けていても、小数点以下第2位の世界の話なので簡単にズレることもあって、完成したグラフはガタガタで結局よく分からなかったりする。そもそもストレスや疲れでホルモンバランスが崩れがち、生理周期も一定じゃない人の場合はグラフもぐちゃぐちゃになって卵子がいつ降りてきたかなど分かりようがない。さらにわりと綺麗なグラフが完成しても、大体このあたりに降りてきているなーというのが分かるだけなので、確実な避妊法とはなりえない。むしろ安全日と呼ばれる日の少なさ、あやふやさを知ることになるだろう。
結局妊娠したくなければ物理的避妊、コンドームが最強ということになる。ここまで説明しても、「でもさ、俺の彼女はゴム嫌だな~生でいい?って聞いたらいいよって答えてくれるぜ。相手がいいって言ってればいいんじゃね?」という若い男子がいるかもしれない。しかしその「いいよ」は必ずしも「はい喜んで」の意味ではないことがあるということを想像したことはあるだろうか。避妊してと言ったら相手に嫌われてしまう、空気読めない奴と思われてしまうなどと考えて、「(生なんて本当は怖くて嫌なんだけど、仕方ないから)いいよ」と答えている女の子は実は多いと思う。そして生理が来るまで一人ぼっちで誰にも言えずにハラハラドキドキ孤独に日々を過ごすのだ。
妊娠してるかもしれないという恐怖を例えるならば、「貴方の金玉にはもしかしたら悪い虫が寄生したかもしれない。大体ひと月たってみないとハッキリ分からないが、運悪く寄生されていれば、ひと月後に金玉が緑色に巨大化します。その場合は手術して取り出しましょう」と宣告された気分を想像してほしい。貴方は誰にも相談できずに、毎回トイレで金玉が緑に変わり始めてやしないかとチェックせずにはいられないのではないだろうか。
そんな最強のコンドームを使って真面目に避妊していても、ごくたまに失敗することがある。残念ながら破けたら効果がゼロになってしまうのだ。しかしそう頻繁に破れるものでもないので、ものすごく安物を使うだとか、装着時に爪でひっかくだとかに気を付ければ失敗は少なくて済む。ゴムより破けにくいポリウレタン素材のものなども出ているので、心配な方はそれを選んでもよい(ちなみにポリウレタン素材のものを私が使った感想は、女性側としてはゴムより擦れた感じがしなくて快適であった)。
それでも失敗した時に是非知っておいていただきたいのが緊急避妊薬モーニングアフターピルの存在だ(これをしっかり学校で教えておくべきだと思うのだが、私は性教育で学んだ記憶がない。現在の若者は習うのだろうか?)。
これは先程も話に出てきたピルと同じ成分を、ガツンと高用量で投入することにより妊娠を防ぐというものである。この避妊効果はかなり高確率、飲めばまず妊娠することはない(これで妊娠したら運の悪さはかなりのものである)。ただし時間制限があるので、性交後72時間(3日)以内に服用しなければ意味をなさない。飲むのは早ければ早いほど効果が高い。三日猶予があれば金曜の夜に失敗しても、月曜朝一で病院に行けば間に合う。
保険適応外になるので財布は痛むが、望まない妊娠するよりはずっといい(保険外なので病院によって値段がまちまちなので、心配であれば電話で確認して一番安いところに行くとよい)。病院の先生もそう頻繁に行かなければ、特に何も言わずにするりと処方してくれるはずだ。
それじゃあ毎回生でやってすぐこれ飲めばいいんじゃ?と思う人もいるかもしれないが、いちいちお金がかかるし、なによりこの方法は女性のホルモンバランスを崩す事により効果が出るので、何度も頻繁に繰り返せば体に負担がかかる。あくまで緊急時の手段だ。きちんとした医者なら「多めにください」と言っても簡単に首を縦に振らないと思われる。
最近は通販でも手に入れられるそうなので、病院に行くのが恥ずかしい方は、あらかじめお守りとして携帯しておくのも手だ。万が一の時のために持っておいても損はない(ただしくれぐれも乱用は避けていただきたいが)。
望まない妊娠を避けるために、本来は避妊に失敗した時や性暴力被害にあった時のための薬ではあるが、どうしても一度でいいので生でやってみたい男性の方(彼女も乗り気、かつ体に負担がかかることに了承を得られれば)、または彼氏に言われてつい生でやってしまったが不安だという方は(今後は毅然と「避妊して」と言うことにして)、是非このモーニングアフターピルを利用してみてもいいのではないかと、私は思う。
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