第11章 無防備こそ最大の防御!ちっこいおっさんの生態

 ここで、新生児って実際どんな特徴をしているのか、皆さんご存知の情報も多いだろうが、まとめてみることにする。


 「赤ちゃん」といえば、プクプクふくよかで、まぁるい輪郭の2、3頭身の可愛い生き物を思い浮かべるかと思うが、生後1か月未満の新生児という生き物は、そのイメージとはまったく異なる生命体である。


 まず、可愛くない。特に生まれて数日はどちらかというと、人というよりはエイリアンという印象。お腹の中で丸々と大きくなって出てくる4キロ前後のふくよかな赤ん坊を除けば、細く皺の寄った弱々しい手足。筋力の片鱗も見せぬクタクタの体。薄く開けられた腫れぼったい目からは黒目が表面積のほとんどを占め、我々では考えられないことだが、呼吸をするということをたまに忘れて死にかける。そしてなんと脱皮をし始める。比喩表現ではなく、文字通り体中の表皮がボロボロと落ちて、一皮むけるのだ。

 

 そんな小さな弱々しい生き物であるのに、一通りの生理現象を信じられないほど一丁前にやってのける。まずあくびは大口開けて勢いよく閉じるのでその風圧に驚かされるし、おならもげっぷも、本当にそこから生み出されたのかと疑うくらい立派な音量でやってのける。大便の時の排泄音は格別で、勢いを持った立派な「ブリブリブリ!」が部屋に響き渡る。この時抱いている腕にはかなりの振動を感じる。もうまるでちっこいおっさんである。


 ちなみに新生児の便は、初めは液状の黒、たまに緑を経て、あざやかなキーマカレーへと進化する。液状のキーマをものすごい勢いで噴射する(たまにその勢いで泡立っている)ので、おむつ替えの時に運悪く2度ほど浴びせられたことがある。顔面に飛んできた時のなす術のない悲壮感は忘れない。



 おっさんらしからぬ可愛げのある所を探して挙げるとすると、母乳しか飲んでいないため口臭が甘いこと、うんちが臭くないこと、かなりの頻度でやるしゃっくりの音に愛嬌がある所であろうか。ただしうんちは成長して離乳食を開始すると徐々に臭くなる(余談であるが、夫はうちの子はうんちが臭くない特別な子なんだと勘違いをしていて、やがて臭くなる事実を伝えた時はかなりのショックを受けていた)。



 また、驚異的なのはその回復力・再生能力で、新陳代謝がかなり活発な新生児は、傷が一日できれいに治ってしまうのだ。眠い時・痒い時、目の中に指を突っ込む勢いで顔の肉をひっかきこするのだが、爪の伸びも異様に早い新生児は爪切りをうっかり忘れていると、ひっかき傷をすぐ作ってしまう。ところが翌日になってみてみると、ほとんど跡形もなく傷が消えているのだ。まるで次のページではいつの間にか傷がなくなっていたりするバトル漫画の主人公のようである。



 あとはビックリした時の反応が、ヒッと息が一瞬止まること以外は大人と真逆である。大抵の人はビックリすると、体がすくんで両手をきゅっと引き寄せるが、新生児がビックリすると、普段見せない瞬発力で両手足、両腕をビクンビクン外へ向けて開いて伸ばす(生後四か月の時には、力と脂肪のついたうちの子は、勢い良く開きすぎて床に手足をビターンと打ち付けていた)。

 いわゆるモロー反射と呼ばれるものであるが、その姿はこの上ない無防備。大人は自分の身は自分で守るためのポーズを咄嗟にとるが、新生児は助けられることを前提にして、防御はすべて捨て去って、清々しいまでに全力で縋るのだ。自分の身は他人が守ると信じて疑わない、無防備こそ最大の防御、それが新生児の流儀である。



 さて最後に私が興味深かったことを紹介すると、新生児期を過ぎてからではあるが、生後2ヶ月くらいに顔面にニキビがあっちもこっちも次々出ては消えたことは衝撃だった。こんな小さくてもニキビというものが出来るのかと。さらにほっぺたには湿疹が出たり消えたりと目まぐるしく、赤ちゃんの肌はすべすべ・ぷにぷにというのは嘘だったのかと寂しく思った。


 うちの子の場合はこのニキビ・湿疹期に、眉毛部分の毛穴のブツブツ・ガサガサがかなり長いこと続いた。生まれた時には生えていなかった眉毛がこの現象とともに生え、黒々しっかりとした太い曲線を描いたので、「あーこの子は女の子だけど毛深いほうか…真ん中でつながっていじめられたらどうしよう…」などと考えていたが、いつの間にか徐々にやわらかい毛質のものに生え変わっていったようで、気づいた時には薄い程よい眉毛に変身していた。


 このような皮膚変化はひと月もすればほとんど落ち着くのだが、次から次へと変化するので本当に驚かされた。皮膚以外でも、表情や動作など、毎日一つは新しい気付きがあり、確実に進化を遂げていく。それがもっとも驚くべき赤ん坊の特徴かもしれない。

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