第14章 赤ちゃんは割と悪趣味?

 有難いことにこの度の出産で、多方面からたくさん出産お祝いの品をいただいた。今まで赤ちゃん用品に触れる機会が少なかったので、色々新しい発見があって興味深かった。例えば、今流行のオムツケーキ(オムツとタオルを使ってケーキの形にしてリボンなど装飾を施したもの)は、意外といいお値段がすることに驚いたし、「ベビーリング」という誕生石をあしらった赤ちゃん用の小さい指輪には、こんなものがあるのかと感心してしまった。(存在に驚いたものといえば、雑誌で見た乳歯保存ケースなるものにはジェネレーションギャップを感じてしまった。私の時代は歯が抜けたら、上の歯なら下に、下の歯なら上に向かって「ネズミの歯―にしておくれ―」と歌いながら庭などに放り投げ捨てたものである。)


 そんな数々のいただいた商品の中に、一際目につく赤ちゃん向け玩具があった。大物と小物のセットだったのだが、何といってもその色が派手で、自然界で見かけたら間違いなく毒を持っている見た目。赤!青!黄!緑!といった原色がこれでもかと、それぞれに強烈に主張し合い、ぶつかり合う。インテリアにマッチなど、はなからする気のない最強の個性を持った代物だった。正直一目見た時の感想は「うわぁ…」というなんとも言えないものだった。せっかくもらったから使うけど、自分では決して買わないだろうセンス。海外産の製品らしく、絵柄はかわいいものの海外寄りで、金髪に紫の顔色の人間や黄緑の顔に赤紫の羽の蝶々の配色は、実に異国情緒を醸し出していた。


 どうやら目がまだあまりよく見えない赤ん坊のことを研究して作られている玩具のようだったが、大人の目には刺激が強すぎて、何もそこまでしなくてもと、せっかくの研究成果についケチをつけたくなってしまった。



 ところがすぐにその認識を改める日がやってくるのである。はじまりは里帰りから帰ってきてようやく落ち着いてきた頃、そろそろ試しに貰った玩具でも見せてみるかと引っ張り出してきた時である。淡いピンクの猫ちゃんガラガラ、優しい黄色のヒヨコにぎにぎを目の前で振ったり鳴らしたりしても無視。清々しいほどの無視。はぁまだ見えてるか怪しいし興味もないですよねーと引っ込めて、最後に激しい色合いの例のものを見せてみる。するとどうだろう、じろりと目が動いたのである。その後も無言でひたすら見つめ続ける赤子。み、見えている!親の顔より真剣に見ているんじゃないかと思うくらい熱心に見つめている。


 生後2ヶ月に入ると、他の玩具との差は歴然。未だパステルカラー系玩具はうっすら反応するかどうかなのに対して、黄緑笑顔の蝶が描かれた方は動かせばしっかり目で追うようになり、3ヵ月ともなれば手を伸ばして骨の髄までむしゃぶりつく勢い。自然界でそれをやったら間違いなく毒キノコに当たって死ぬぞと思いながら、ぐずった時の救済アイテムとしてかなりの効力を発揮した。


 他の玩具にようやく興味を示し始めたのは4ヵ月に入ってからで、それでも手に当たったから触ってみるか程度の無表情に対して、紫金髪男の方は視界に入ったら目は輝くし口は「わー!」と言わんばかりにあんぐり開くしの大のお気に入りっぷり。ちょっと趣味悪いですよと口を出すのも憚られるほどの食いつき加減であった。


 4ヶ月の終わりにやっと他の玩具に手を伸ばして楽しそうに遊ぶようになったと思ったら、お気に入りの刺激物の方は、興奮しすぎて食らいついた勢いで手から落ちて失った悲しみにギャン泣き、拾って与えると食らいついて…の無限ループ。こちらのサポートなしには全力で遊ぶことがかなわなくなった。ぐずった時に与えると、機嫌よくなるのは数分で、好きすぎて思い通りに扱えないことに泣くという御執心ぶり。狂おしい愛ゆえの怒りと悲しみ。




 研究の成果恐るべし。毒だとか悪趣味だとか言ってすいませんと言わざるを得ないほどの威力であった。ベビー用品売り場などで、飾りがゆらゆら音楽に合わせて回るベッドサイド用のメリーなどを我が子に見せてみたりしたが、やはり優しい色合いの商品が多いためそこまでの食いつきは見せなかった。子供に激しく喜んでもらいたい場合には、鮮やかで激しい色であることはかなり有効なようである。これから出産祝いを選ぶという方は是非、「え、この人の趣味悪…」と貰い手に思われることを恐れずに、目がチカチカする毒劇物を選んで、ドヤ顔でお贈りいただけたら良いかと思う。そう、大体の赤ん坊はきっと悪趣味だから。

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