第1章 腹の神秘

 2016年1月末。予定日前日に里帰り出産にて女児出産。出産自体は短時間かつスムーズな「初産のくせに早すぎ!」「入院用カバン取りに帰っている間に生まれるとか早すぎ!」「夜までかかるって言われたからのんびりしてたのに先生の嘘つき!」と口々に皆から称賛と文句と驚嘆の言葉をかけられた安産で、他の方と比べると大したドラマもないので、ここではその内容は割愛させていただく。(初めての出産に高鳴る鼓動と興奮を抱えた妊婦の方は、出産エピソード本・漫画が沢山本屋さんに溢れているのでそちらを参考にされたし)


 さて、妊婦の象徴といえばパンパンに張りつめたお腹である。膨らんでいく過程は、ネットで検索をかければいくらでも微笑ましい画像を見ることが出来るので想像しやすいが、出産後、中身を出すと一体どうなってしまうのか。これはずっと私が持ち続けた疑問で、人に話を聞いてもいまいちピンとこず、実際に体験できるのを心待ちにしていた。シューと風船のように萎むのか。過酷なダイエットに成功した勝者につきものの、皮だけだるんだるんな姿になるのか。


 まず萎む様子。これはまさに「目を離したすきに」であった。私は経膣自然分娩であったので、分娩台の上でひーひー言った末に子供を生み落した。ひーひー言っている間は出血しても破水しても確かにお腹は丸々としていたはずなのであるが、最後のいきみの後、ずるりと赤ん坊が出てきて、あれよあれよという間に臍の緒を切られ、一旦私の上に顔見せ程度に乗せられ、すぐ計測などのために我が子が運ばれていったその短時間の間に、気が付くとお腹は萎んでしまっていた。


 赤ん坊が排出されたスッキリ感はハッキリと分かったが、お腹の萎む感じは全く体感できなかった。できれば目視で萎む様を確認したかったものであるが、そのためには全裸で出産に挑まねばならず、行き来するスタッフにいちいち驚かれるのも恥ずかしいので、これは叶わなかった。それならせめて次回出産する機会があれば、分娩時に片手を腹の上に置いて触角で確かめたいところだが、次も安産とは限らないため、自分にそんな余裕があるか、また、真面目にいきむことに集中しろと助産師さんから御叱りを受けるのではという危惧が小心者の私には気になるので、これも叶うかどうか怪しいところである。産んだらすぐ腹を触る!とイメージトレーニングと実際に手の動きの練習を重ねていれば、もしかしたら望みはあるかもしれない。


 次に萎んだお腹の見た目であるが、私の場合は「だらしない、たるみ」であった。生み終えて会陰切開部分の縫合、2時間の分娩室での経過観察を終え、自分の個室にたどり着きようやく一人になった私がしたことは、とにもかくにもお腹を見ることであった。あんなにパンパンだったお腹がなくなり久々に自分の胸の下のあばら骨に触れて、感動もつかの間、そこには「だらしない、たるみ」としか言いようのないお腹がこんにちわしていた。人ひとり入っていたころはピンと張りつめていたものであるが、中身が失われ、ぶにぶにとした柔らかな感触は、万年もやしっ子の私にとって新鮮なものであった。


 「生んでもすぐぺったんこにはならないわよー」という先輩からの前情報通り、出産当日、翌日のお腹はバストのアンダーラインからつき出ていた臨月のシルエットと同じ部分から、ふっくらゆるやかにポテッとたるんでおり、自然なおデブちゃんに近い体形をしていた。これが3日目、4日目になると、たるみがゴソッと下部に移動した見た目になり、胸の下からへその上まではかなり産前に近い状態になる。へそ周辺から下腹が変にポッコリ出て、このあたりが一番不自然な体つきだったように思う。ちなみにこの時期はまだ子宮が萎みきっていない大きな状態の為、仰向けになった時に下腹部を触ると子宮をハッキリ感じ取ることが出来る。完全に萎みきると、もう触ってもよく分からなくなるので、子宮と触れ合いたい方は是非この時期に触っておくことをお勧めする。


 5日目以降は徐々にその丸いポッコリ下腹が引っ込んでゆき、やがて自然な弧を描き、最終的に私の場合は10日ほどで「食べ過ぎてちょっと下腹に肉が着いちゃった人」まで回復、ひと月もたてば、見た目には産前とほとんど変わらなくなった。ただし産後母乳育児をしている影響か、すぐお腹がすき間食が増えてしまったため、産前よりは脂肪が付き、へそ周りがふにふに掴めるようになってしまった。


 皮膚に関しては短期間で急激にダイエットした人のような、余ってだるんだるんな状態にはならず、自然に収縮していった。下腹部にやや脂肪が着いたのと、妊娠線ができてしまったので、その部分は以前よりハリがなくなり、立っている時は分からないが座ると横皺が細かく入るようになった気がするが、これは現在経過観察中である。



 お腹といえば、その中身で是非記しておきたいのが赤ん坊の後を追って出てくる胎盤である。私はどうしてもこれを見ておきたかったので、出産のイメージトレーニングの中に「胎盤見せてください」と声をかける項目も入れていた。実際出産後は、わが子の顔を見た後は、「胎盤見せてくださいって言うぞ」と、そのことばかり考えて機をうかがっていたほどである。


 胎盤の第一印象は、「わあ思ったより血の塊って感じ!」であった。銀のバットの上に置かれたそれは思ったよりは平べったく、しかしながら重量感があって、とにかく血まみれだった。胎盤が見たいと言う希望を聞いてくれた助産師さんが、持ってくる前に「結構グロテスクですけど大丈夫ですか?」と確認してくれたのも頷けた。


 確か私の両手いっぱい分ほどの大きさであったと思うが、赤い塊には血管が張り巡らされており、膜で覆われていた。そして臍の緒がそこから伸びているのだが、解説してくれた助産師さんによると、その根元の位置が人それぞれ違うということだった。てっきり真ん中あたりから生えていると思っていた私の臍の緒は、胎盤のかなり端っこから伸びており、ギリギリ盤上にあるという様子であった。人によっては盤上からはみ出して、胎盤を覆う膜から生えていることもあると教えてもらい、大変興味深かった。これから生む方、立ち会う方で血糊に耐性がある方は、是非自分の「臍の緒の生え方」を見てみることをお勧めする。私はもし次の子を授かることが出来、また安産であれば、今度はどこから生えているのか胎盤チェックをするのが今から楽しみである。



※2人目出産後コメント※

 2人目の出産もかなりの安産で精神的余裕も1人目よりあったのだが、今回は分娩中いきむと少量だが大便を捻り出してしまい、助産師さんが都度拭き取ってくれるのだが大変に精神的に辛かった。二度目の余裕で色々なことが冷静に把握できてしまうため、助産師さんに声を大にして「ごめんなさいねーーー」と叫びたくなった。(実際分娩中「あ、ごめんなさい…」と小さく謝罪したのだが、助産師さんは何でもないことのように素早く、本当に素早く拭き取った上で「大丈夫ですよ」と安心させるように答えてくれた。慣れてらっしゃるのであろうその目にも止まらぬ処理のお陰で、立ち会っていた旦那は大便が捻り出されていたことには全く気付いていなかったそうだ。)あの大便を少しずつ拭き取られる感覚は生涯忘れられないと思う。

 お腹の凹む感覚は今回はしっかり味わうことができた。1人目の時はよく分からなかった、頭だけ出ている赤子が股に挟まっている感覚もしっかり分かったし、赤子がずるりと出ると同時にお腹もずるんと凹み、喪失感が凄かった。


 ちなみに2人目の臍の緒は胎盤真ん中あたりから生えていたが、助産師さんが気を遣って軽くしか見せてくれず、「いえ、血とか大丈夫なんでもっと皿傾けて見せてもらっていいですか!」と食い下がる気力がなくて1人目の時ほどじっくり観察ができなかった。意気地なしで申し訳なく思う。



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